第63話 貴族の屋敷と紋章と
ルガリア王国の広大な王都は依然として夜の静けさの中にある。今の季節は初夏。まだまだ涼しい夜の闇の中でミナトは建物の屋根伝いに移動を続けている。四人いた暗殺者たちはそれぞれ別のルートで帰還をするらしい。ミナトは隊長と呼ばれていた大柄な男を追うことに決め、一定の距離を保って追走していた。
『それにしても王都って広い…。この辺りは来たことがない。でも王都の中心に向かってるかな…。やっぱり貴族がらみってことだろうね』
ミナトの呟きは
東の空が徐々に明るくなってきた。夜明けが近い。黒装束の隊長はその足を止めることなくずっと移動を続けている。ミナトの視界にあった王城は随分と大きくなってきた。遠くから見ても大きいと感じていた王城はやはりとてつもなく大きい建造物であるらしい。
『どこまでいくのか…』
ミナトがそう思った時、隊長と呼ばれた男がその移動速度を落とす。ミナトの存在に気付くことができないまま、男は高い鉄製の柵を越え、大きな屋敷の敷地へと飛び込んだ。そのまま屋敷の中へと姿を消す。その様子を確認したミナトは敷地に侵入することなく足を止めた。
『この屋敷が彼らのアジトってことだろうか…。えっと、正門は…』
ミナトは眼前の大きな屋敷の正門を探す。
『無理をする気も、そこまで貴族と係わる気もないんだよね…』
そう思いながら正門の前に立つ。
「これが紋章かな。ライオン?えっとファンタジーの世界的には獅子かな?黒い獅子って感じ?これをどこかで確認すれば暗殺者たちの黒幕…、少なくとも関わっている貴族が分かると…」
太陽が山の端から顔を出し、王都が朝日に照らされ始める。
「帰ろうか…、シャーロットはあのお客さんの家を特定できたかな?」
身を翻したミナトは自分の店へと移動を開始した。清々しい空気と朝日が心地よい。徐々に目を覚ます王都、街のあちこちから少しずつ日常の喧騒が聞こえてきた。
自分のBarへと帰ってきたミナトは
「おかえりなさい。ミナト!大丈夫だった?」
「マスター。問題はあったのか?」
シャーロットとデボラが待ってくれていた。帰った時に待ってくれている人がいる喜びが不意にこみ上げて嬉しくなるミナト。
「ただいま!待っていてくれてありがとう。中には入っていないけど暗殺者のアジトらしい屋敷は特定してきたよ。それとその家の紋章もね。黒い獅子の紋章だったよ」
「黒い獅子?」
シャーロットがそう問い返す。
「そうだけど…、何か気になる?シャーロットはあのお客さんを追ったんだよね?」
「ええ。私もあのお客さんの屋敷を特定してきたわ。誰の屋敷か分からなかったから紋章を見てきたのだけど…、それが白い獅子だったのよ」
シャーロットの答えにミナトは更なるテンプレ的展開を予感した。
「黒獅子と白獅子ね…。ファンタジーなテンプレかな…」
思わず口を突いて出たミナトの呟くの意味が分からず、シャーロットとデボラはその美しい顔に疑問符を浮かべるのだった。
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