第64話 二人に素敵な朝食を
「よし、うまく焼けたみたいだ…」
笑顔で焼き立てのマフィンを眺めるミナト。
パンがあれば酵母もある筈と思い探したミナトはマルシェで乾燥酵母を手に入れていた。
ミルクと砂糖と乾燥酵母をボウルに投入しよく混ぜて少し放置。その後、そのボウルへ油と小麦粉を投入し滑らかになるまでかき混ぜる。滑らかになったら塩とさらなる小麦粉を投入し柔らかい生地ができるまでかき混ぜる。そこから後は手でこねこね…。ボウルに入れて二倍になるまで放置。大きくなったらガスを抜いて麺棒で薄く延ばして丸い金型でカット。麺棒も金型もマルシェで売っていた。同じくマルシェで手に入れたトウモロコシの粉を振りかけて二次発酵へ。四十五分ほど待ってからオーブンで焼き上げた。
昨晩の王都での追いかけっこの結果、気持ちが昂ったのかいつもより短い睡眠時間で午前中に目覚めたミナトはバーテンダーである彼や同じくBarで働くシャーロットやデボラにとっての朝食を作っていた。
基本的に食事の用意は三人の持ち回りでやっている。シャーロットが担当の時は肉と野菜を使ったボリュームのある料理、デボラが担当の時はレッドドラゴンの里で採れた極上の果物と野菜が中心のヘルシー志向。ミナトの場合はマルシェと呼ばれる市場で様々な食材を調達しかつていた世界の料理の再現を試みることが多い。
ちなみに油と卵と酢が手に入った直後に作った
今日のミナトは昨夜の追いかけっこで何かのスイッチが入ったのかちょっと凝った料理を作る気になった。マフィンの状態を確認しつつミナトの視線はオーブンに注がれている。
今日はデボラがレッドドラゴンの里から持ってきたリンゴを使わせてもらうことにした。季節は夏、この世界での作物の旬がまだよく分からないミナトであるが、リンゴはマルシェでも売られているようで今の時期でも採れるらしい。かつての世界と変わることなくとてもポピュラーな果物とのことだ。
用意したのはリンゴ、砂糖、粉末のシナモン、生クリーム、鞘ごとのバニラ。リンゴ以外はマルシェで取り揃えることができた。
洗って芯をくり抜いたリンゴを三つ。芯をくり抜く際に極限まで細くした【闇魔法】
そんなリンゴを三個丸々浅い鉄鍋に並べ、砂糖とシナモンを混ぜたものを振りかけて、鍋の底に水を注ぐ。そんな鉄鍋がミナトの視線の先にあるオーブンの中に入っていた。
ミナトは手元のボウルに生クリーム、鞘から取り出したバニラ、砂糖を投入して混ぜ合わせる。
「あとはリンゴが焼けるのを待つだけだね…。んじゃ、もう一品行きますか!」
気合を入れたミナトは早速ソース作りに取り掛かる。
鍋に入れたバターを火にかけよく溶かす。数分間そのままにして上澄みの澄ましバターを作り出した。
それとは別に小さめの鍋に卵黄とレモン汁を投入したミナトはそれを泡立てるべく右手に魔力を集める。この世界には泡だて器なる物がまだない。職人であるバルカンに依頼しているが完成待ちの状態である。そんなミナトが泡だて器に使用するのは当然ながら【闇魔法】の
混合物がふわふわになってきたのを見計らい少しずつ澄ましバターを投入するミナト。固くなってきたのを感じたので少量の水を加え残りのバターを追加する。塩、胡椒、これまたマルシェで見つけたカイエンペッパー、そしてレモン汁を投入しよく混ぜ合わせると濃厚で絹のようになめらかに乳化したソースが完成した。
「オランデーズソース!これはうまくいったんじゃないかな?」
思わずそんな呟きが出るミナト。間髪入れずに次の工程に取り掛かる。
鍋に水、塩、ビネガーを投入して加熱する。またまた【闇魔法】の
「ふふ…。まだまだ腕は衰えていない…」
不敵な笑みと呟きを漏らすミナト。ベーコンを焼くのも忘れない。
二つに割って両面を焼いたマフィン、いい具合に焼き上げたベーコン、ポーチドエッグ二つを順に盛り、上からオランデーズソースをかける。仕上げに胡椒を少々。これを三人前。
「こっちは完成だ!オーブンの方はっと…」
オーブンを覗き込むと大振りのリンゴがふくふくと焼けていて見るからに美味しそうであった。オーブンから取り出し三つのリンゴをそれぞれ生クリーム、バニラ、砂糖を混ぜ合わせたクリームを張った皿の上に盛りつけた。仕上げにシナモンの粉末を忘れない。
「よし!完璧だ!」
満足げなミナト。
「おはようミナト!とても美味しそうな素敵な香りね!」
「マスター!おはようございます!今日の朝食はどうやらこれまで以上に美味な料理の予感がするぞ!?」
朝食の存在を嗅ぎつけたのか二人が一階に降りてくる。
「二人ともおはよう!今日の朝食も期待してくれていいからね!当然カクテル付きだよ?」
満面の笑みで二人に朝食を振舞うミナトであった。
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