第52話 救助活動

「今の悲鳴は!?」


 ミナトが周囲を確認するが人の気配は感じられない。


「シャーロット?どこから聞こえてきたか分かる?」


「助けに行くの?」


 そう問われたミナトは頷く。


「この世界って人の命がおれがいた世界より軽い気がするけど、もし本当に危険に巻き込まれた人がいるのなら、おれの近くで死んでほしくはないかな…?」


 甘いことを言っているのは分かっている。こういったことが何らかの罠の可能性もあることは事前にシャーロットが教えてくれていた。ミナトがシャーロットを見ると彼女は優しい笑顔を浮かべていた。


「ふふ…。そう言えるミナトって素敵だと思うわ!分かった。助けに行きましょう!ちょっと待ってね…」


 そう言って目を閉じるシャーロット。その全身から全身が淡い青い輝きに包まれる。ミナトはその沸き上がる膨大な魔力を見つめていた。


反響定位エコロケーション…」


 シャーロットがそう呟くと彼女を中心に同心円状に青い魔力が出現した。青い魔力の波は周囲一帯を呑みこむかのように広がってゆく。


「これは…、蝙蝠とかイルカが使う…」


「ミナト!よく知っているわね。その通り、これは蝙蝠が音波を出してその反響で周囲の状況を確認していることを基に構築された魔法よ。音波じゃなくて魔力で探索する。だから障害物もほとんど関係なく周囲を探査できる」


「そんな便利な魔法が…」


「だけど魔力をバカみたいに消費するから実用化には水魔法のレベルが五以上は必要と言われているわね」


「それって実質シャーロットだけが使えるってことだよね?」


「そうなるかしら…、あ…、大きな魔力反応…、ミナト!場所が分かったわ!どうやら大物がいるみたい!行きましょう!」


「分かった!」


 そうして二人は駆け出した。そして数分後、ミナトとシャーロットの眼前に広がる光景とは…、


「これは大きい…」


 思わずミナトが呟く。そこでは冒険者達と巨大なトレントが戦闘を行っていた。そしてその冒険者達に守られているように蹲る一人の女性の姿があった。


「あれはエルダートレント。トレントの上位種ね。滅多に見ないけどあそこまで大きいのは特に珍しいわ」


 シャーロットがそう教えてくれる。ここは開けた場所ではないので火矢などは使えない。襲い掛かる木の枝を冒険者達が必死に薙ぎ払っているのだが、そもそも外皮が想像以上に固い上にあっという間に再生するエルダートレントの前に苦戦を強いられているようだ。


「ミナト!助けるなら冒険者のルールに則って…」


「分かった。先ずは了承を得る、だったね!」


 そう言ってミナトは冒険者達に向かって声を上げた。


「おれは悲鳴を聞いて駆け付けた冒険者だ!助けは必要か!?」


 魔物との戦闘に関しては最初に接敵したパーティにその優先権が与えられる。例え傍目から見れば命の危険な状態であっても無断で戦闘に加わるのは冒険者のマナー違反だと教わっていた。


「た、頼む!!何でもいいから手を貸してくれ!!」

「って二人かよ…」

「とにかくこの人を安全な所へ!!」

「あんた!早く!手が足りないんだ!!」


 若干、二人しか登場しなかったことに不満がある者もいるようだが、とりあえず言質はとった。


堕ちる者デッドリードライブ…」


 それと同時に冒険者達には聞こえない音量でミナトはそう呟いた。


「おい!あんた達!!早く戦闘に…、くっ…」

「威勢のいいのは口上だけかよ…、チクショウが…」


 ミナト達がすぐに戦闘に加わらなかったことに悪態をつく冒険者達だったが…、


「あ、あれ…?」

「枝が…、再生が遅れている…?」

「斬れる…、さっきまで弾くのがやっとだったのに…?」

「なんかエルダートレントの動きが…?」


 ミナトが使ったのは至高のデバフ魔法である堕ちる者デッドリードライブ。対象の能力を一時的に低下させ、低下の度合いは発動者任意の魔法であるが、ミナトはエルダートレントの再生能力と防御力に強力なデバフをかけたのだった。


「シャーロット!」


「ふふん…。任せて!」


 ミナトの言葉に反応したシャーロットが右手の掌をエルダートレントに向けた。


風刃斬ウインドカッター…」


 一陣の風が吹き抜けた…、と冒険者達は感じた。すると、


 ズ、ズズズズ、ズズン…。


 根元からバッサリと刈り取られたエルダートレントの巨体が横ざまに倒れるのであった。

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