第50話 またテンプレの予感

「え゛っ!!?っと、し、失礼しました…。ほ、本当に炎竜の紅玉レッドオーブを入手されたのですか…?」


 思わず発した驚愕の声と表情を強靭なプロ意識で押し留めた商業ギルドの受付嬢が声を潜め、周囲の視線に注意を払いつつも聞いてくる。


「あ、ああ…。そうだけど…?確認します?」


 戸惑いながらも頷いたミナトは背負ったバッグの中から炎竜の紅玉レッドオーブを取り出そうとして、


「お待ちください!ここでは騒ぎになります。奥の部屋を用意するのでそこで鑑定させてください!」


 潜めた声のままそう言い残した受付嬢は慌てた様子で奥に引っ込んでしまった。


「シャーロット?今更だけど炎竜の紅玉レッドオーブって貴重かな?」


「うーん…。貴重だとは思うわ。現在、市場に流通しているのはかつて戦乱の時代…、すいぶんと昔よ?その時にレッドドラゴンから魔力の動力源として研究者が譲り受けたものなの。何故かそういった経緯は後世に伝わらなくて宝石としての価値が見出されて流出したものが殆どなのよ」


「それがぐるぐる市場で回っているだけ?じゃ、新品は珍しいんじゃ?」


「偽物も多いからそれらを含めると発見はそれほど珍しいことではないわ。でも今回のこれは紛れもない本物だから、どこで入手したのか?とかは聞かれるかもしれないわね」


「『火のダンジョン』で運よく発見しましたの一択で!」


「私もそれでいいと思うわ」


 そう答えるシャーロットの笑顔をいつものように奇麗だと思うミナトであるが、気になることを思い出した。と同時に少しだけ冷や汗が出てくる。


「シャ、シャーロット!?もしかして本来の炎竜の紅玉レッドオーブの造られ方って…、秘密だった?」


「え?秘密ってことはないけど、かつての研究者たちも現物を受領しただけだから…。そうね…。レッドドラゴンの体内で生成されるという事実を人族で知ったのはミナトが初めてだと思うわ」


「やっぱりそうなんだ…。大丈夫なのかな?このところのおれって知っちゃいけないことを知りすぎてない?」


「大丈夫よ!それに気にしてももう遅いわよ?そもそもレッドドラゴンが街を造って住んでいることも人族ではミナトしか知らないもの!」


「ソ、ソウナンデスネ…」


 ステータスの種族の部分に『【種 族】きっと人族』と表示されてしまっていることに関連するような事態に不本意ながらも納得してしまうミナトであった。


 二人がそんな会話をしていると受付嬢が戻ってくる。


「お待たせしました。準備が整いましたのでご案内します。こちらへ…」


 そう促されてミナトとシャーロットは商業ギルドの奥にある会議室へと移動する。


「よく来た。君たちが炎竜の紅玉レッドオーブを持ってきたと言う二人組だね?」


 案内された会議室でそう声をかけてきたのは白髪交じりの初老の男。仕立ての良いスーツのような衣装を纏っており銀縁のメガネが目を引く。


「えっと…、そうですが…。あなたは…?」


 そう問いかけるミナトに初老の男は笑みを浮かべて答えてくる。


「私はガウェイン。この商業ギルドのギルド長を務めている」


 ギルド長とはまた随分と大物が出てきたと思うミナト。そしてこの状況はラノベで読んだことがあったと思い出す。これがテンプレ的状況だと『どこで手に入れた?という質問から派生して来歴や能力について根掘り葉掘り質問される』とか『それが盗品でなければ実力を示すため〇〇という依頼を達成して見せろと言われる』といった面倒な展開に巻き込まれるかもしれない。


「それはちょっと嫌かもしれない…」


 恐らくシャーロット以外の耳には届かないであろう音量でそう呟き、僅かに顰めるミナトだった。

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