第48話 従業員募集

 破格の性能である闇魔法に加えて新たにとんでもないスキルと魔法を入手したミナト。もう笑うことしかできないような状態だったが何とか現実へと意識を向けた。その視線の先にはレッドドラゴン達が跪いている。


「ちょ、ちょっと、レッドドラゴンさん!そんな風に跪かれるとこっちが困ってしまうよ!」


「何を言う!既に我らは主殿の眷属。我ら一族悉く、我らの命の灯火が尽きるまでこの体と魔力の最後の一片までも主殿に忠誠を尽くすことをここに誓おう」


 ミナトのことを主殿と言ってきた。


「主殿!ご命令を!」


 そんなことまで言ってくる。


「シャ、シャーロット…。ど、どうしよう…?」


 ミナトは縋るような視線をシャーロットへと送る。


「うーん…。でも眷属状態を解くことって出来ないみたいよね?だったらこのままでいいんじゃない?レッドドラゴンは強いし…、きっと役に立つわよ?命令を欲しがっているみたいだし眷属として何かお仕事を与えてみたら?」


「仕事っていっても…」


「そうよ!Barで働いてもらうのは?私も働くけどレッドドラゴンならいい従業員になると思うわ!私達には隠したい能力が多いから秘密を絶対守れる従業員としては最適じゃない?それに強いし!」


「いや…、レッドドラゴンが従業員ってどんな過剰戦力…」


「何言ってるのミナト!あなたと私がいる時点で十分過剰戦力よ!ドラゴンが増えても今更って感じ!」


 そう言われてみると絶対的に信頼がおける従業員は貴重かもしれないと考えるミナトである。


「主殿?我ら命じられれば何でもするが…、その従業員というのは人族などが営む店舗で働く者のことだというのは分かる…。だがBarとはどのようなものだ?」


 そう尋ねられたミナトはBarの説明とそれを開業したいと思っていることを話した。そして目当ての物件を手に入れるためには炎竜の紅玉レッドオーブが必要でありそのためにこの『火のダンジョン』へと来たのだと伝えて。


「なるほど…。ではそのBarを開業した後に主殿の下で我らが働くということか…」


「そうなるかな…。報酬もきっちり払うよ。そこまで大きな店じゃないから一人で大丈夫かな」


「では報酬は主殿のカクテルを頂くことでどうだろうか?」


「カクテル?それでいいの?」


「我らに金はそれほど重要ではない。あの素晴らしいカクテルというものを頂けるのであればそれが我にとってはそれが何よりの報酬となるだろう」


「ま、食事も提供するしね…。それでよければ…。あと何かおれ達にできることがあれば言ってよね」


「うむ。では主殿がBarを開業した暁には我を召喚して頂こう」


「え?長のあなたが?」


 そう問いかけるミナトに当然のことのように力強く頷くレッドドラゴンの長。


「それは職権乱用じゃないですか?」

「カクテルが飲みたいだけでは?」

「我々で十分です。一族の長が里を離れるのは認められません!」


 そんな反論が彼女の背後から次々と聞こえてくる。


「よ、よいではないか!これくらいの特権があっても…」


 狼狽えながらも自身の権利の内だと正当性を主張する長。


「あー、もしそれ以外に来たいレッドドラゴンさんがいたらお客として来てくれればいい。転移の魔法が使えるようになったしね。簡単に王都まで来ることができるよ?召喚もできるしね?」


 ミナトが助け舟を出すと全員が一言の反論もなく同意した。どうやら本当に眷属になったらしい。


「では主殿。これから主殿の眷属として働く我に名前を付けてはくれまいか?」


「名前か…」


 確かに呼び名がないのはちょっと困る。ミナトはしばし眼前の美しいレッドドラゴンの長の名前について考える。


「デボラってどうかな?情熱的な女性の名前って感じなのだけど…」


 そう提案した瞬間、レッドドラゴンの長の体が光り輝き、大量の魔力が溢れ出た。


「ミナト!どうやら名前を与えたことでさらに何かが起こったみたいね…」


「え…、でも眷属強化マックスオーバードライブでの強化は一度のみって…?」


「きっと名前を付けるまでが一度なのだと思うわ。彼女がどんな存在になるか楽しみね」


 明るく言ってくるシャーロットを前にミナトは思わず天を仰ぐのだった。

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