第45話 皆で楽しむことにする
「オレンジの色にザクロの赤が混じってとても奇麗ね…」
そう言いながらシャーロットはカクテルを口元へと運ぶ。時間をかけるようにゆっくりとカクテルを飲むその仕草はとても絵になると思うミナトであった。
「……これも美味しい……。アガヴェ酒…、ミナトの世界ではテキーラだっけ…?その味もするのにオレンジの甘みがあってとっても呑みやすいわ。ザクロの香りもしているのかしら…?」
「ま、グレナデンシロップはほんの少しだからね…」
どうやらシャーロットはテキーラ・サンライズを気に入ったらしい。こくこくと飲み始める。
「ミナト!これ本当に飲みやすいわね!」
「その割に結構お酒は入っているからね。そもそもテキーラは飲みやすい酒なんだ。それをオレンジ果汁で割っているからさらに飲みやすくなる。元の世界ではそのせいで飲み過ぎてしまう人もいたよ」
そう聞いたシャーロットは納得の顔になる。そんな二人の様子を見ていたレッドドラゴンの長はおそるおそるグラスを持った。
「是非とも試してみて下さい。あなたの協力が無かったら作れなかったカクテルです」
「大丈夫!とても美味しいわ!あなたも気に入る筈よ!」
ミナトとシャーロットにそう言われたレッドドラゴンの長はその美しい紅い瞳をぎゅっと閉じてテキーラ・サンライズを口へと運ぶ。すると…、
「……旨い……」
そんな呟きがミナトとシャーロットの耳へと届く。レッドドラゴンの長は口からグラスを離すとそのカクテルをまじまじと見つめ…、今度は一息に飲み干した。そのまま再び目を閉じて固まってしまう。だがその表情には笑顔が浮かんでいる。どうやら美味しいと思ってくれたようだ。
「よかった…。気に入ってくれ…、ぐはぁ!!」
ホッとしたミナトが声をかけようとしたその刹那、ミナトはその両肩をがっしりと掴まれる。まるで竜の腕に捕らわれたかのような強大な力を感じる。眼前にはレッドドラゴンの長の美しい顔。だが上気したその表情からどうやら興奮状態にあるらしい。そして激しく前後に揺す振られる。
「ミナト殿!!こ、こ、これは!?これは一体どのようなものなのだ!?アガヴェの酒は我が種族が好み、我が種族のみが作る酒!!だがこのような飲み方は伝わっていない!!なぜミナト殿がこのような飲み方を知っているのだ!!!」
ぶんぶんと前後に頭をシェイクされるミナト。
「待って!待って!待って!し、死ぬ…、死んじゃう、う、う、う、ううううううう…」
そう言っている割に結構余裕のありそうなミナト。傍らではシャーロットが『気に入って貰えてよかったわね』などと呑気に笑っている。
そんなこんなで盛り上がりちょっと時間が経った後…、
「ミナト殿!素晴らしい酒を教えてくれたことに心から感謝する!」
そう言って頭を下げているのはレッドドラゴンの長である。背後のレッドドラゴンたちも同様だ。
「気に入ってくれてよかった…。皆もね…」
ここまで感謝されるとは思わなかったミナトは頭を掻きつつ笑顔でそう返す。
あの後、騒ぎを聞きつけて集まってきたレッドドラゴン(人の姿)達と周囲に控えていたメイドさん(こちらもレッドドラゴン)にテキーラ・サンライズを作り大好評を得た。さらにミナトは塩とリムの実(ミナトの世界のライム)を貰い、ライムを齧り、塩を舐め、よく冷やしたテキーラを
「この長い竜の半生においてこれほどまでに感動したのはシャーロット様にご助力頂いたとき以来かもしれぬ」
「なんかそんなに言われると照れてしまうね…」
「謙遜なさるな!シャーロット様に匹敵するほどの強大な力を有しながらも、このような美味い酒を作ることができる繊細な技術を持っておられる。ドラゴンは強さに惹かれるがそれと同様に高い技術力にも惹かれるものなのだ。ミナト殿は尊敬するに足る存在なのだ」
レッドドラゴンの長がそう言っているがそう思っているのは彼女だけではないようだ。なんだかもの凄い数の尊敬の眼差しが自分に降り注いでいるような気がして落ち着かないミナトである。視線をどこにやったものかと辺りを見渡すミナトであるがその視線の先にいるレッドドラゴンたちの体がうっすらと輝き始めた。
「ん?…あれ?なんだか皆が光り輝いているような…?シャーロット!なんかレッドドラゴンさん達が光ってない?」
「ふにゃ?どーしたの?ミナト?」
ほろ酔いのシャーロットがそう言いながら近づいてきてミナトの腕にしなだれかかる。その細くしなやかで美しい肢体が自分の腕に絡まるのは素直に嬉しい…、がミナトはその誘惑を必死に振り払ってシャーロットに問う。
「シャ、シャーロット!こ、これは嬉しい状態だけど…、そ、それよりも!!ほ、ほら!皆がなんか光っているって!」
「ほえ?どういうこと…」
ややとろんとした目をこしこしとこすったシャーロットがレッドドラゴン達を見つめる。そのまましばし固まっていたシャーロット…、と思った瞬間、全力でミナトの腕を引っ張ると彼に向き直る。
「ミナト!!」
その美しい顔が近いが、今はそのことを横に置くミナト。ほろ酔い加減はどこへやら…、その真剣な眼差しはどうやら大変なことが起きていることを示していた。
「な、何が起こっているの!?」
「あなた!!レッドドラゴンたちをテイムしているわ!!」
「へ!?」
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