第44話 テキーラ・サンライズ完成!
「やっぱりテキーラだった…。美味い…」
「少し甘めでとても飲みやすいわ!美味しいお酒ね!ミナト!」
自分の予想が間違いなかったことに笑みを浮かべるミナトと彼の横で美味しそうにテキーラを味わっているシャーロット。一行は森に隣接して造られた街中の大きな屋敷の食堂に移動している。どうやらレッドドラゴンの長が住み屋敷らしい。レッドドラゴンにとって棲み処となる建物は必須のものではないらしいが、人の姿で日常を過ごす際に便利ということで人族とそれほど変わらない構造の街が造られているとのことだった。
「王都にはオレンジがある…。となるとあとはザクロかな…」
「ミナト?何のこと?」
「ミナト殿?」
思わず零れたミナトの呟きにシャーロットとレッドドラゴンの長。
ミナトは視線を二人へと向ける。スレンダーな肢体と絶世の美しさを誇るシャーロットとグラマラスな身体にきりっとした美しさを湛えるレッドドラゴンの長。二人ともかなりの美形であり居並ぶ姿はそれだけでかなりの目の保養になる。
さらに周囲にはメイドのような衣装をまとった女性たちが控えていた。彼女達も当然ながら人化の魔法を使ったレッドドラゴンだが総じて皆が美しい。どうも人化したドラゴンは美人というのがこの世界の設定らしかった。なかなかに落ち着かないミナトであるがとりあえずそのことは脇に置いて酒の話をすることにする。
「あ、ごめんごめん。カクテルのことを考えていたんだ」
「カクテル!?ミナト!このお酒でカクテルができるの!?」
直ぐに反応するシャーロット。
「ああ。美味しいよ。今考えていたカクテルには他に材料が二つ必要なんだけどね…」
「ミナト殿?そのカクテルというのは…?」
首を傾げているレッドドラゴンにシャーロットがカクテルを説明してくれる。ミナトの作るカクテルは最高に美味しいとのコメント付きで。
「そのような飲み方があるとは…」
なかなかに驚いている様子だ。
「ミナト!その必要な材料ってどういうもの?」
「一つはオレンジ。もう一つがグレナデンシロップなんだけど…」
「オレンジは分かるけどグレナデン…?」
「グレナデンシロップ。ザクロっていう果物を砂糖とレモン果汁を加えて煮詰めたものだけど王都でザクロは見なかったんだよね。今は春だしね…、確かザクロは秋の果物だったから…」
「ザクロってあの赤くて中がツブツブの?」
「そう!よかった!ザクロはあるんだね…」
シャーロットの答えに安堵するミナト。どうやらこの世界にザクロはザクロの名前であるらしい。
「ミナト殿。オレンジとザクロはこの街になら今日にも手に入るぞ?」
ミナトとシャーロットの会話を聞いていたレッドドラゴンがそう言ってくる。
「本当?」
「ああ。この街の郊外の農地では結界と魔力を使って気温をコントロールすることで周年様々な果物を育てている。オレンジとザクロは手に入る筈だ。それとグレナデンシロップだったか…?その名では呼んでいないのだがザクロを砂糖とレモンの果汁で煮詰めた物は我らも作っている。ヨーグルトにかけると美味いのだ」
『ドラゴンってフルーツが好きなんだ…』
ミナトは口には出さずにそう思いながらオレンジとグレナデンシロップをお願いするのだった。
「じゃ、作ってみるね」
材料を用意してくれたレッドドラゴン達にお礼を言ったミナトは調理台の前に立っていた。傍らではシャーロットと人の姿となったレッドドラゴン達が控えている。ミナトの手元には二つのグラス、オレンジ、ビン詰めにされたグレナデンシロップ。グレナデンシロップはカクテルに使うため水分量の多い作りの物をお願いした。そしてラベルも何もついてないガラス瓶に入ったテキーラがある。
ナイフを取り出してオレンジをカットし絞って水差しのような器にオレンジの果汁を入れる。一杯につき九十ミリは必要だ。搾り器が欲しいがそれは無かった。オレンジジュースがあったら楽なのだがフレッシュは美味しい。ここは頑張って絞ることにするミナトである。
「シャーロット。このグラスにこれ位の氷を三つくらい入れてくれる?」
「分かったわ!」
ミナトの要望に応えるように青い魔力の輝きと共に二つのグラスに程よい形の氷が発現する。
「相変わらず見事な魔力操作ですね…」
レッドドラゴン達が驚いているがミナトはカクテルの作成を継続する。
まずナイフを使ってグラス内の氷を回しグラスを冷やす。バースプーンは絶賛製作を依頼中だが早く手に入れたいと思うミナトである。冷えたらグラス内の水を切りそこにテキーラを注ぐ。テキーラ四十五ミリ…、体が覚えてはいるがメジャーカップも早くほしいと思いつつテキーラを注ぎ終わったミナトは流れるような所作でオレンジの果汁をグラスに注いだ。
ナイフを持ってテキーラとオレンジ果汁を混ぜる。周りにいるレッドドラゴン達はその優雅な所作に言葉もなく見守っている。混ぜ終わったら明るいオレンジ色になったそのグラスにグレナデンシロップを少量注ぐ。本来はバースプーンを使って優雅に注ぐ姿を見せるのだが今回はジャムに使用されるようなビンに入っているグレナデンシロップをスプーンを使ってそろそろと沈める。
そしてナイフを器用に使い沈んだシロップを攪拌するとグラスの中ほどから下の部分が淡い赤へと色を変える。
「キレイね…」
「確かに…」
シャーロットとレッドドラゴンの長の呟きを耳にしながらミナトは二人の前にグラスを差し出した。
「どうぞ。テキーラ・サンライズです」
その言葉と共にミナトは穏やかな笑みを浮かべるのだった。
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