第42話 紅い髪の女性

「さあ着いたぞ!」


 そう言って地面へと降りたレッドドラゴンの背から降りるミナトとシャーロット。そこは鬱蒼とする森の中、奥へ石畳の道が続いていた。


「お二人の目当てのものはこの先にある」


 その言葉にミナトが振り向くとそこには美しい一人の女性がいた。真紅のロングヘアーに切れ長の目。きりっとした表情がよく似合う。身に纏っているルガリア王国の王都ではあまり見かけない衣装で隠されていはいるが、引き締まった脚線に高い腰、そして見事なまでに張った胸もまた彼女の魅力を際立たせていた。


「誰…?」


 そう呟かずにはいられないミナト。


「どうしたのだ?貴殿が闘い無力化したドラゴンの顔を忘れたのか?」


 いやミナトもこれまでのファンタジーな経験から大体の察しは付いていた。察しは付いてはいたのだがいざ目の当たりにして思考が追い付いて行かない。


「いや…、日常は人の姿って聞いてたからそうだとは思ったけど…」


『ドラゴンが人型になったら美人…、これもテンプレかな…』


「ミナト!心の声が漏れているわよ!」


 そう言われて我に返るミナトであった。そんなやり取りを続けつつレッドドラゴンを先頭に森の中を進む一同。


「ミナト殿?我の姿が珍しいか?」


 途中そんなことを聞いてくるレッドドラゴン。


「いや…。ごめんなさい。女性とは思っていなくって…」


「うん…?ああ、我らドラゴンの種族は人族のような性別は存在しないのだがな…。ドラゴンは人族の世界に合わせようとすると雌…、女性が近いのだ。だから我々は人族の姿を取る時は女性の容姿にするものが多いな」


「女性の容姿にする?」


「魔法で姿を変えているからやろうと思えば様々な容姿になることができるのだ。ただ、自分のイメージとかけ離れていたりすると長時間その姿を取ることは難しい。日常では自分のイメージに最も近い容姿を選んでいる。我の場合はこの姿だな。これであればずっと同じ姿でいることも可能なのだ」


「そうなんだ…」


 と言って納得つつミナトはふと思う。ファンタジーの世界でこれは『この世界の謎の一つ』的な情報ではないのか…、と。途端に自分が聞いてよい話だったのか心配になってくるミナト。


「シャ、シャーロット。今の話ってこの世界で謎とされている事柄の一つってことでその…、世界の核心の一つに触れているってことにならないかな…」


「うーん、そうね…。ドラゴンを研究している者だったらその重大さに気絶しているかしら?この世界を司る六つの属性を持ったドラゴンとこうやって話が出来ると知ったら研究者は狂喜乱舞するかも…?」


「でも、さっき商人との取引がって…」


 やはり世界の謎に触れていた。少し動揺するミナトである。


「それはドラゴンであることを隠してのことよ。世界を司る六つの属性を持ったドラゴンと彼らが気を許した状態で遭遇することは人族では難しいわ」


「じゃあ遭遇しただけじゃなく戦闘までやって無力化したおれって…?」


「順調にこの世界の支配者への階段を上がっているってところかしら…。さーすがミナト!」


 とびきりの笑顔で背中を叩いてくるシャーロットにミナトの表情が引き攣った。


「ふふふ…。ミナト殿は自信を持つとよい。貴殿の持つ力は強大だからな…。おっと着いたぞ。あの大樹の根元にお二人が求める炎竜の紅玉レッドオーブがある」


 途端に森が開け巨大な紅いクリスタルで出来た樹が視界へと飛び込んでくる。全てが紅いクリスタルで造られており、遠くから見た時も迫力があったが、近くで目の当たりにするとその美しさと大きさがさらに際立つ。


「これが我らの象徴であり、我らが一族をかけて護る存在。この世界の火属性を管理する『火の大樹』だ」


 その荘厳なまでの美しい姿に圧倒されるミナトであった。

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