第41話 ドラゴンの背に乗って

 ゲートを潜る直前、このフロアは溶岩と岩山が支配する灼熱の世界だった筈である。しかしドラゴンの背から見渡すその風景は見事なまでの快晴と輝く太陽、そして爽やかな風が吹き抜ける緑の大地であった。そんな見事な光景の中に巨大な真紅に輝くクリスタルの樹がそびえ立っている。


「シャーロット!これは…?」


 依然としてその光景に圧倒されているミナトがシャーロットへ問いかける。


「ようこそ!ミナト!ここがレッドドラゴンの里よ!」


 そう美しい金髪を風に靡かせながらシャーロットが答える。


「…シャーロット様。それは我が言う台詞では…?」


「何よ!いいじゃない!」


「そういうところは以前からお変わりありませんね…、あれを斃したときだっ…」


「はい?」


 ミナトとシャーロットを乗せているレッドドラゴンからの言葉にそう反応したシャーロットの目が細くなり不気味な光を放ち始める。そうしたままに薄ら笑いを浮かべるシャーロットの周囲に剣呑な魔力の動きを感じるミナト。


「……………誰のおかげでこの空間が造られたか忘れてしまったようね…」


「そ、それは…、それはそれはそれは重々…、重々…、じゅうぅじゅうぅぅぅぅ承知しておりますぅぅぅぅ!」


 途端に狼狽えるレッドドラゴン。


「あの時のことは忘れなさい!私も若かったのよ…」


「あれを若気の至りですませてよいものかどうか…?」


「あなたもなりたいようね…。いいわ、そこまで言うなら…」


「めめめめめ、滅相もありません!!」


 そんなやり取りを眺めるミナトは、


「一体どんな関係だ…?」


 そう呟きながら首を捻るのだった。


「ミ、ミナト殿!いかがです?この光景は?」


 話題を変えたかったのか唐突にレッドドラゴンがミナトに話を振ってきた。丁寧語になっているのが気にかかる。そこまで怖い存在と思われているのだろうか…。


「ああ、凄い光景だ…。とてもさっきと同じフロアとは思えないよ…」


「これからあの樹の根元にご案内します。先ほどお話しした他のダンジョンとの違いもそこでお伝えしましょう。お二人が求めておられる炎竜の紅玉レッドオーブもそこにあります」


「楽しみだ!」


「ええ!」


 ミナトがシャーロットと頷き合う。そんな二人を背に飛び続けるレッドドラゴンが街の上空へと差し掛かる。


「あれ?人が住んでいる…?」


 ミナトの口からそんな言葉が漏れる。


「ここはレッドドラゴンの里よ!基本的に全員がレッドドラゴンね!」


 シャーロットの解説にレッドドラゴンも同意を示す。


「うむ。我らレッドドラゴンは日常的には人族に近い姿で生活している。こういったドラゴンの姿では細かい作業などは難しいからな…」


「細かい作業?」


 そう聞き返すミナト。口調が戻ったとも思っている。


「我らも人族の商人と交易というものをしているのだ。別の転移の魔法陣があってそれが山の…、人族が大山脈地帯と呼んでいるものの北側に繋がっている。そこに小さな集落のようなものを造り小規模ではあるが交易を行っているのだ。人族が作る道具は便利なものが多いのでな…。まあ、商人たちは我らのことを山奥に住む少数の部族とでも思っているのだろう」


「大山脈地帯の北っていうとロクサーヌ共和国あたりの商人かしらね…。大山脈地帯を挟んでいるからそれほど交流があるわけではないけれどルガリア王国とも友好を結んでいる国よ」


 シャーロットが補足してくれる。


「ちなみに交易品としてはどんなものを…?」


 興味を持ったミナトが問う。


「酒だ…」


「酒!?」


 ミナトが大きく反応する。


「うむ。我らレッドドラゴンには…、いやこの世界を司る六つの属性、火、水、風、土、光、闇のドラゴン達にはそれぞれに酒造りが伝わっている。その酒は人族にとっても美味なようでな…。それを交易品として人族が作る道具類の購入を行っているのだ」


「そうよミナト!ドラゴン達の作るお酒は美味しいわ!それでカクテルが作れるんじゃない!?」


 興奮気味にシャーロットがミナトへとにじり寄る。絶世の美女の顔が近い。この状況にあって相変わらずなかなかに落ち着かないミナトであった。


「あ、ああ。作れるかもしれないな…。レッドドラゴンさん!後であなた達が造るお酒を飲ませてくれませんか?」


「もちろんだとも!歓迎しよう!!」


「やったじゃない!」


 レッドドラゴンの背でハイタッチを交わすミナトとシャーロット。ミナトはこの冒険の結末と新たな酒との出会いを想って胸を躍らせるのだった。

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