第40話 ドラゴンの案内する先
「シャーロット様も人が悪い…。アレが必要であったのなら最初からそう言って頂ければすぐにでも用意しましたのに…」
「それは悪かったわ。さっきも言ったようにミナトの実力を見てみたかったのよ…」
「そう仰いますが、もしミナト殿がその気であったら…」
「そうなる前に私が止めていたわよ!それにミナトはそんなことをする人じゃないわ!大丈夫だったわよ」
「我は久方ぶりにあの決戦の日を思い出しま…」
『このダンジョンの名物となるような氷の彫刻になりたいかしら!?』
「!」
ミナトには聞こえなかったがシャーロットから何かを言われて固まるレッドドラゴン。そのやり取りからシャーロットはやはり過去には触れられたくないようだと思うミナト。
ミナトとシャーロットはひと際大きなレッドドラゴンの案内で『火のダンジョン』の広大な第十階層を移動していた。シャーロットによるとドラゴンに個としての名前というものは基本的に無く、性別も無いのだが人族に照らし合わせて無理やりに選択すればどちらかと言えば雌に近い存在とのことだ。そして何らかの外的要因がない限り不死であり永く生きる程に体が大きく強くなるとか。
ということでこの大きなドラゴンがレッドドラゴン達の長と呼ばれる存在らしい。聞いた内容が元の世界で読んだことのあるラノベとほぼ同じ設定だと思うミナトである。
「ドラゴンさん!」
「!!!」
ミナトが気楽な調子で声をかけると全身をビクッと振るわせた後、おずおずとこちらに顔を向けるレッドドラゴンの長。長だけではない周囲にいたレッドドラゴン達も固まっている。
「な、何かな…、ミナト殿?」
「そんなに固くならなくてもいいのに…」
「そうは言うがな…。ミナト殿がその気になれば我らは瞬時に全滅する…。ミナト殿はそれほどの存在なのだぞ?」
「何もしないから大丈夫だよ?質問をしていいかな?この『火のダンジョン』って第何階層まであるものなの?」
「そ、そんなことか…。『火のダンジョン』はこの第十階層が最終階層となっている。ただしこの第十階層はとてつもなく広い。広さそのもので考えれば百階層を超えるダンジョンとも遜色はないと思う」
「そうなんだ…。ん?…ということはあなたが『火のダンジョン』の主?」
ミナトはほんの軽い気持ちでそう問いかけた。しかしその問いにレッドドラゴンの長は狼狽する。
「ミ、ミナト殿…?た、確かに我はそのような呼ばれ方をすることもあるが…。も、もしや我を斃して踏破を成し遂げるおつもりか…?」
震える声でそう言ってくるレッドドラゴンを見てミナトは慌てて否定する。
「いやいやいや…。シャーロットの知り合いにそんなことはしないよ。ただの好奇心!」
「そ、それならば問題ないが…」
「それで続きだけど…、あなたが『火のダンジョン』の主ならあなたを斃すことでダンジョン内の魔物が一定期間消えるってこと?」
「いやそうはならない…、我らドラゴン族が棲み処とするダンジョンは他の一般的なダンジョンとは
そう言われるままに案内されると激しい溶岩流によって周囲を囲まてた岩山が出現した。そんな岩山の裾野には夥しい数のサラマンダーがいる。ミナトは頂上から若干の魔力の波動を感じた。どうやら岩山の頂上に魔法陣があるらしい。
「転移の魔法陣よ。形はいろいろあるわ。あれは魔法陣と言うかゲートに近いわね。あれをくぐるとどこかに転送される。ダンジョンの場合はそのダンジョン内のどこかのことが多いけど、トラップだったりするとそんなことお構いなしにとんでもない場所に飛ばされることもあるから注意が必要なものね」
シャーロットが説明してくれる。
「あれはゲートを通過するとレッドドラゴンさん達の棲み処に転送されるってことだね」
ミナトがレッドドラゴンを見上げると長は頷き返してきた。
「ここは飛んでいくことにしよう。我の背に乗って頂ければ…」
そう言ってレッドドラゴンの長は背を低くする。
「お願いするわ…」
「ドラゴンの背に乗るって…。まるであの王道RPGだね…。お願いします!」
ミナトとシャーロットが乗ったことを確認するとレッドドラゴンはふわりと浮かび上がると速度を上げて転移の魔法陣であるゲートに突入する。視界に金色の光が溢れミナトは思わず目を閉じた。次の瞬間、ミナトは頬に涼しげな風を感じて思わず目を開く。
「おおおお!!!」
ミナトが思わず驚きの声を上げる。ドラゴンの背に乗り空を飛んでいるミナトの眼下には緑の田畑と大きな森そしてその先には街が広がっていた。そして何より驚いたのは、
「凄い…」
「ミナト!驚いた?」
言葉を無くすミナトとその様子を嬉しそうに見守る美しいエルフ。二人の視線の先には真紅に輝くクリスタルで出来たあまりにも巨大な樹がそびえ立っていた。
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