第39話 本来の目的

「ま、まさか…、まさか…、シャ、シャーロット様がこのようなところに…」


 そう言いながらも滝のような汗を全身に滲ませるのはミナトを攻撃してきたひと際大きなレッドドラゴンの個体。先程までの威厳はどこに行ったのか…、今は仁王立ちしているシャーロットの前でその巨体を可能な限り小さくしながら座っている。その後ろには大量のレッドドラゴン達が平伏していた。


「シャーロット…。このドラゴンさんと…、ってその前にどこに行っていたの?」


「ごめんなさい。ミナトの戦闘訓練にちょうどいいかなって思って隠れてたの…。だって私が出ると…」


 そう言ってシャーロットはレッドドラゴンを見上げる。見上げられたレッドドラゴンはすくみ上がる。その様子にミナトは元の世界のゲームを思い出した。


「あー。これはRPGでみたドラゴンはってやつだね…。なんか懐かしい。それにしてもシャーロットってやっぱりすごいんだな…。ん…?あれ?だけどレッドドラゴンの群れって戦闘訓練っていうレベル!?」


 ミナトにすごいと言われドヤっとスレンダーでその曲線も美しい胸を張っていたシャーロットはバツが悪そうに顔をミナトから背ける。


「ふっ…」

「ふっ…、じゃないよシャーロット。本当のところこの世界においておれのような人族でレッドドラゴンの群れと戦うことって可能なの?」


 ほんの少し追及するミナト。


「あは、あははははは…。レッドドラゴンは世界を司る存在の一つだからS級冒険者を集めたパーティでもこの数の群れ相手だと一瞬で消し炭ね…、というか消し炭すら残らず消滅していると思うわ。でもミナトなら勝てると思ったのよ!!それに簡単に勝てたでしょ?」


 シャーロットの言葉にミナトが眉間を抑える。どうやら頭痛がしているらしい。


「そうだけど…、実際に何とかなってしまうおれって…」

「魔王への第一歩を踏み出したって感じかしら…」

「魔王なんかになる気はないからね!!」


 そんなやりとりを聞いていたレッドドラゴンが尋ねてくる。


「シャ、シャーロット様。あ、あの…、こ、こちらの方は…?」


「えっと、改めてってことで紹介するわね!彼はミナト!私のパートナーよ!」


「パ、パートナー!?シャーロット様の!?」


 思わず声を張り上げるレッドドラゴン。


「そうよ!出逢ったのは偶然だけどね。ミナトは信頼できる本当に頼もしい仲間よ。魔法戦では私より強いしね?」


 そう言われてレッドドラゴンは驚愕の表情を浮かべる。


「貴方様よりも!?つ、強い??」


「ええ。あの鎖…。あれは私でも避けようがないもの…、フフフ…」


 何故か嬉しそうに微笑む絶世のエルフを前に気のせいか真紅の鱗に覆われている筈のドラゴンの表情がものすごく青ざめたように感じるミナトである。


「シャーロット。そろそろ本題に入ろうかと思うのだけど…、それに君とレッドドラゴンってどういった関係…」


「ほ、本題に入りましょう!!」


 焦り気味に若干顔を赤らめてミナトの言葉を遮りそう応えるシャーロット。やっぱり過去は知られたくないらしい。そう察してそれ以上は何も言わないことにするミナトである。


「ねぇ、貴方たちの棲み処に許可なく踏み込んだことは謝るわ。私たちは炎竜の紅玉レッドオーブを探してここに来たの。あなた達が体内で創り出す魔力の結晶。それを頂くことは可能かしら?」


 やっと本来の目的を伝えることができたミナトはほっと胸を撫で下ろすのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る