第34話 『火のダンジョン』での実戦

「(弱め…、弱め…、弱めの威力で…)冥獄炎呪ヘルファイア!」


 響き渡るその声と共に漆黒の炎が出現する。すると現れた黒い炎は四つの拳程の塊へと分裂し標的となった燃え盛る土人形ファイアゴーレムへと着弾する。大人の背丈ほどある四体の燃え盛る土人形ファイアゴーレムは着弾と共に燃え上がった漆黒の炎に包まれ消滅した。


「ふー…」


 そんな言葉を漏らしながらも額の汗を拭うのは冥獄炎呪ヘルファイアを唱えた術者であるミナトだ。


「相変わらず凄い威力ね…。それに冥獄炎呪ヘルファイアって火属性の魔物にも効くのね…。それもかなり強力に…」


 ミナトの傍らでその闇魔法の威力に目を見張るのはエルフのシャーロットである。


 二人がいるのは王都の北にある大山脈地帯…、そこにある火山エカルラートの地下に広がる通称『火のダンジョン』と呼ばれる大迷宮の地下三階である。北へ数日…、と聞いていたミナトだが実際には一週間以上は必要だった。これから夏を迎えるというのに北の大山脈地帯はなかなかに肌寒かったのだが、ダンジョンの中は『火のダンジョン』と呼ばれるだけあって想像以上に暑い。


 そんなダンジョン内のミナトは冒険者用のブーツ、この世界に共にやってきたジーンズ(なんだかんだで結構使えることが判明)こちらで調達した半袖のシャツ、魔法攻撃、物理攻撃にある程度の耐性を持つマント、腰には短剣と言うか小太刀のような剣を帯びている。


 シャーロットはというと、簡単な耐熱処理が施されているという魔導士風のローブに身体を包んではいるがその下はショートパンツとインナーとしか表現できないタンクトップであった。ローブの隙間から覗くその汗ばんだ肢体と容姿を相変わらず美しいと思うミナトであるが目の保養はそこそこにダンジョンへと集中することを忘れはしなかった。


『火のダンジョン』はドロップ品、宝箱ともに良質のアイテムが手に入るということで初級からベテランの冒険者まで広く人気を集めているこの大陸屈指の優良ダンジョンだという。しかし、それは広大な第一階層、第二階層のことを指しており、第三階層以降は難易度が跳ね上がるらしい。『火のダンジョン』に潜ったミナトとシャーロットは他の冒険者パーティが多くいた第一階層、第二階層を避けるようにして第三階層に到着していた。


 この世界で魔法が使える者は極端に少ない。攻撃方法として魔法が中心となるミナトの手の内を他者に明かさないためにシャーロットが早々に冒険者の少ない第三階層への移動を提案し、ミナトも賛成した。そうしてこの第三階層でシャーロットの指導の下、魔物相手の実戦を本格的に繰り広げることになったのである。


「ふふ…。燃え盛る土人形ファイアゴーレムは斃し難い魔物として知られているわ。動きが遅い代わりに炎を撒き散らす範囲攻撃をしてくるし、炎に包まれているから武器攻撃のみの冒険者は大変なのよ。魔法が使える私達にとってはこんな感じで貴重な収入源ね!」


 そう言ってシャーロットは拾い上げたルビーをミナトに見せる。装備以外の道具と手に入れたアイテムは全てシャーロットのマジックバッグに入れてもらうことにしていた。


「魔法攻撃は大丈夫だけど…、近接の戦闘は自信がない…」


 ミナトは汗ばんだ表情でそう呟く。ダンジョンはどこから魔物が出てくるのかが分かり難い。シャーロットと出会った森で何度か魔物と戦う訓練をしたがそれ以上に気が抜けなかった。


「ミナト!魔力は大丈夫?」


「ああ。まだ全然大丈夫だよ!」


 その答えにシャーロットは満足そうに笑顔で返す。


「それならミナトの悪夢の監獄ナイトメアジェイルがあるから近接戦闘も問題ないわ!それに魔力ポーションも念のため持ってきているし、私もいる。ある程度は武器も使えた方がいいと思うけどミナトの魔法は規格外だから焦ることはないのよね…。今回の冒険でその腰の短剣を使用することはないと思うわ」


 そんなことを言ってくれる。確かに出会った森で使った悪夢の監獄ナイトメアジェイルは確かに強力だった。身をもってその威力を知っているシャーロットだからこその助言だろうとミナトは思う。だが…、


悪夢の監獄ナイトメアジェイルが必要になるような魔物には出会いたくないな…」


 自覚なしに盛大にフラグを立ててしまっているミナトであった。

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