第32話 冒険者ギルドの資料室

「はい、ミナト!これが地図ね。ただし完璧なものではないから注意してね?」


 前のめりでテーブルに手をつき至近距離で笑顔と共に片目を瞑る美しいエルフ。今日のシャーロットは濃紺で少しタイトなロングタイトスカートに明るいイエローのニットからなる薄手のセーターという装いだ。


「こ、これが火山エカルラートの地下に広がる火のダンジョンか…」


 そう答えたミナトであるが額からは一滴の汗が流れ落ちる。スキル『泰然自若』はうまいこと発動されてはいないらしい。その原因は毎度の如く眼前の美女である。


 繰り返しになるがその容姿は本当に美しい。なかなかに深めのスリットから覗く見事なまでに美しい脚と柔らかいニット素材によって強調されてしまう美しい上半身のライン。ちょっと大きめの地図を開くことが出来る程のテーブルを挟んで立っているが互いに地図を覗き込むその距離はとても近い。そしてそんな体勢であるためミナトの目には柔らかいニットが創り出す胸元の隙間から形の良い双丘の一部分が否応もなく飛び込んでくる。


『脚がグンバツってあのマンガでも言ってたけど…、それに加えてこれは…。ま、意識するなという方が無理か…』


 例えミイラで発見された高僧であっても見てしまうだろう…。妙な確信を持つミナトである。


 ここは冒険者ギルドの資料室。資料閲覧のために設置されたテーブルを挟んでミナトとシャーロットはダンジョンの地図を覗き込んでいた。


 ドワーフの職人であるアルカンとバルカンの兄弟から協力を取り付けてから十日ほどが経っている。この間、ミナトとシャーロットはバーの候補となりそうな他の物件の内覧やアルカンとバルカンに注文するための商品の打ち合わせでなかなかに忙しい日々を送っていた。そして職人の二人への注文が一段落したのとほぼ同じタイミングのある夜、ミナトとシャーロットは一つの決断を下すことになった。


「やっぱり物件は最初のやつにしよう!」


 ミナトの決断にシャーロットも賛成した。立地や設備を考えると最初の物件以上の建物はまず無いと言えた。問題があるとすれば…、


「じゃあ炎竜の紅玉レッドオーブが一個必要になるわね!明日、商業ギルドで炎竜の紅玉レッドオーブを入手に行くことを伝えましょう!」


 そんなこんなで朝一でミナトとシャーロットは商業ギルドへ赴き正式に最初の物件を購入する意向を伝えた。ギルドの受付嬢によると他に購入する意向の者がいなかったため商業ギルドの規定でこの先一ヵ月は優先的にミナト達に炎竜の紅玉レッドオーブを持ち込む権利が発生するとのことだ。つまり今日から一か月以内であれば他に炎竜の紅玉レッドオーブを持ち込む者がいたとしてもミナト達が炎竜の紅玉レッドオーブを持ち込めば建物の購入が成立するということだ。一ヵ月を過ぎると炎竜の紅玉レッドオーブを先に持ち込んだ者に購入の権利が優先的に割り当てられるらしい。ちなみに購入希望者が複数いた場合は様々なルールの中から一つを選び競争になるようである。


 そうして申し込みを済ませたミナトはシャーロットに連れられて現在いる冒険者ギルドにやってきた。シャーロットによると炎竜の紅玉レッドオーブを持つレッドドラゴンは王都から北へ数日、北方にそびえ立つ大山脈にある火山エカルラートの地下に広がる火のダンジョンにいるらしい。


「せっかくだから冒険者の心得とダンジョンについて勉強しましょうね」


 シャーロットにそう言われた今ミナトは冒険者ギルドの資料室でダンジョンの地図を絶世の美女と共に眺めている。


「本当に冒険が始まりそうな感じだ…」


 楽しそうにダンジョンの構造について説明するシャーロットを見ながらふとそんなことを呟くミナトであった。

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