第28話 ドワーフに伝わる滋養の薬

「金属製の食器とな?」


 そう問い返すアルカン。


「ええ。まだまだ道具が足りていないのですよ…」


 ミナトは答える。ジガーとも呼ばれるメジャーカップ、バースプーンは必須だ。当然、カクテル用のストレーナーも欲しい。ストレーナーが手に入るならミキシンググラスも必須となるが今はまだアルカンには頼んでいない。アブサンスプーンなんてのもいつか必要になるかもしれない。


「バーテンダーという職業もなかなかに大変なのじゃな…」


 そんなミナトの説明を聞いてアルカンは呟く。


「一応、専用の道具がなくてもカクテルは作ることが出来ますがやっぱりきちんと店を営業したいのです」


「ふむ…、それならば儂の弟を紹介しようかの…、この近くで工房を開いておるわい」


「弟さん?」


「ちょっと変わっとるがな…。…………い、いや、金属加工の腕は一流じゃぞ?ただ…、あいつ……、が食器の作成を請け負うかの…」


「「?」」


 もごもごと口籠るアルカンにミナトとシャーロットは首を傾げる。


「ま、まあ、ともかく!実は今日あいつの工房に行こうと思っておったのじゃ。お主らも一緒にどうかの?紹介してやるわい。仕事を受けるかはその後の話し合い次第になるがの…」


「いいのですか?」


「なに…、儂の用事はこいつを渡すだけじゃからの…」


 そう言ってアルカンは透き通った緑色の液体が入った小瓶を二人に見せた。


「それはアブーね?」


 シャーロットは一目で中身が分かったらしい。


「そうじゃ。あやつのまだ小さい孫が風邪を引いたとかでな。すぐに熱は下がったらしいが…、ちょうど二、三本余っていたから届けようと思っていたのじゃ」


「シャーロット、アブーって?」


 ミナトが聞く。


「ドワーフに伝わる滋養の薬よ。どの種族にもよく効くけど味が独特なのよね…」


 シャーロットは少し嫌な顔をする。飲んだことがあるらしい。


「はっはっはっは。その通りじゃ。癖があり、さらにこのままでは酒精も強い…。その味はドワーフでも好みが分かれるところなのじゃよ」


 笑ってアルカンがそう付け加える。


「酒精が強い?お酒ってこと?子供も飲むのに…?」


 ミナトの表情が疑問で一杯になる。


「これを酒として楽しむドワーフはいたとしても随分な変わり者じゃろう…。それと子供に飲ませるときは砂糖水にほんの少し垂らして飲ませるのじゃよ」


「なるほど…、砂糖水にね………………、ん?……独特の香り……そしてその色…………それって…………?」


 呟きながらミナトが固まる。


「ミナト?」


「はっ!」


 いつものことながらにゅっと覗き込んできた絶世の美しさを誇るエルフの表情で現実に引き戻されたミナト。シャーロットの美しさに当てられるが今はそのことを脇に置き、慌ててアルカンへと向き直る。


「アルカンさん!!」


 声に気迫が込められている。


「あ、ああ。なんじゃ?」


 その鬼気迫る表情に気圧されつつも対応するアルカン。


「そのアブー、余ってるって言ってましたよね?一本譲って頂けないでしょうか?」


「そ、それは構わんが…、あっちの通りにある…、あ、今日はもう閉まっているかもしれんが、明日にでもあそこの薬屋に行けば簡単に手に入るぞ?それにしても一体どうしたのじゃ?」


「いま…、どうしても今、その味を確かめたくて…。お願いします。代金は払いますので…」


 勢いよく頭を下げるミナト。勢いに押されたアルカンは快くアブーの小瓶を一本ミナトに売ってくれた。小瓶を手にしたミナトは香りを確かめ、手の甲に一滴落し味を確認する。


「間違いない…。アブサンだ。こんな形で出会うなんてね…」


 この世界でまた一つバーで使える酒を発見したミナトは会心の笑みを浮かべるのだった。

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