第27話 グラスの注文

「この酒がもっとうまく飲めるグラスじゃと…?」


 手にある薄い玻璃はりで作成された二六〇ccのグラスを見ながら呟く。


「それはどんなグラスじゃ!?」


 食って掛かるようにミナトに迫るアルカン。そんなアルカンを宥めつつミナトはアルカンの疑問に答えることにする。


「その前に一つ質問があります。このグラスの容量は?おれの故郷では二六〇ccシーシーとか二六〇mLミリリットルっていう感じで呼ばれていたのだけど…」


「あん?容量じゃと?そのグラスは二六〇ミリリトルじゃ。液体に関してはリトルという単位が我らドワーフの中では一般的なのでな。お主が言っている単位と同じもののようじゃな」


 途端にミナトは笑顔になる。


「やった…。単位が同じ…。これは楽になる…」


 周囲を気にせずガッツポーズを決める。


「ミナト!ミナト!アルカンさんが不思議そうにしてるわよ?」


 美しいエルフに突っつかれて我に返るミナト。


「あ…。す、すいません。つい自分の世界に…。ありがとうございました。いろいろ条件が整いました。実はですね同じ薄いガラスのデザインで三七五ミリリトルくらいの容量のグラスはできますか?それくらいあると大きすぎないグラスでウイスキー・ソーダをゴクゴクと気持ちよく飲める容量だと思うんです」


「三七五か…。その容量は作成したことがない…、じゃが…」


 そう答えながら考え込むアルカン。目を閉じてしばらくぶつぶつと何かを呟きながら考え込んでいたがやがてニヤリと笑い目を開ける。


「なるほど…、面白い…。我やお主のような手にも程よく収まり、エルフの嬢ちゃんのような手にも大きすぎない…。それであって氷を考慮した上でも満足できる酒の容量か…」


 話が通じたことを内心喜んでいるミナトはアルカンの目を見て頷く。


「この厚みで大きなグラスは難しい…。それを承知での注文じゃな?」


「貴方の腕なら問題ないと思っていますからね」


 なんということはないといった風にミナトは答える。そんなミナトを見てアルカンは笑う。


「言ってくれるわ…。若造め…。だがこのアルカン久しぶりに滾ってきた。その注文受けさせてもらおう。引退はまだ先じゃ!!」


「おっと、その有難い応えを貰ったついでにもう一つ注文をお願いしたい」


「なにっ!?」


「もう一つ!こっちのデザインでも同じ薄いグラスの制作を依頼したいんだ!」


 ミナトが手に取ったのは元の世界でロックグラスやオールド・ファッションド・グラスと呼ばれるもの。


「容量は三〇〇と四〇〇で!」


「なかなかに無茶な要求をする客じゃわい…」


「それでウイス…、じゃなかった…、燻り酒のロック…、つまり氷を入れて手っ取り早く冷やして飲むって方法をやるとスムーズさが際立つ飲み方になると思うんだよね…。あ、あとその飲み方にほんのちょっとさっきの炭酸水を注ぐとまた趣向が変わって面白い飲み方になる。あ、あと柑橘の果汁をちょっと入れてみるとか…」


 ミナトの言うウイスキー・ロックを想像してアルカンは参ったとばかりに両手を上げる。


「分かった分かった!そんな酒の話を聞いて飲んでみたいと思わないドワーフがいると思うのか!?任せろ!造ってみせる!」


「ありがとうございます」


 ミナトは頭を下げた。


「とりあえず初めての仕事になるからな…。先ずはそれぞれの試作品を作る。それを見て貰って個数と金額はその後に相談だ。当然、試作品の製作料も頂くがな?」


「それで構いません」


「では、そうだな…。一週間後にまた来るといい」


「分かりました」


 そうして握手をするミナトとアルカン。


「あ、そうだ!もし可能ならもう一つお願いが…」


「まだあるのか?」


 呆れるようなアルカンの言葉にバツの悪い表情を浮かべつつミナトは口を開く。バー開業にあたり道具はまだまだ足りていない。


「もしご存じだったらスプーンやフォークのような金属の食器を製作できる職人さんを紹介して頂けないでしょうか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る