第24話 ガラス工芸家のドワーフ
唐突に背後から声を掛けられ二人が振り向く。
「お、お邪魔しています…。えっと…、あ、あの…」
「ここの主のアルカンじゃ」
声の主、ガラス工芸家であるアルカンの背丈は子供とさして変わらなかった。しかし、首から肩にかけて筋肉はもりあがり、胸板は肩幅とほぼ同じ厚みがあると思われた。彫りの深い顔は恐ろしいほどのぎょろ目で鼻の下から白い炎のような口髭が八の字に噴き出している。
「ドワーフ…」
余りにも元の世界の物語通りのフォルムに圧倒されそう呟くことが精一杯のミナト。
「なんじゃ?ドワーフが珍しいか?この王都には大勢おるぞ?それよりも待たせてすまんかった。今日の作業は自然光が必要でな。既に夕刻ゆえ作業を終えてしまっていたのじゃ。それで…。どのような用かな?」
「ね、ミナト!」
シャーロットにつつかれ我に返る。
「す、すいません。えっと、おれはミナト。こちらはシャーロット。グラスの注文がしたくて伺いました」
「やはりお客か…。せっかく来てもらって申し訳ないのじゃが、注文を受けることはできんのじゃ。すまん」
そう言って頭を下げるドワーフ。
「忙しいのですか?それとも専属での契約か何か…?」
「いや…、そうではない。実は今手元にある注文が終ったら引退をと思ってな…」
「「え゛!?」」
ミナトとシャーロットが同時に声を上げる。
「そ、そんな…。折角このグラスに出会えたのに…」
そう言うミナトの手にある薄い
「そう言って貰えるのは嬉しいがの…。最近はそんなグラスよりも派手な意匠が施されたものが好まれてな…。一定の注文はあるが…、儂も時代遅れになったと感じての…」
「派手な意匠?ガイゼイル商会みたいな?」
ミナトの問いをアルカンは肯定する。なんでも近頃はシンプルなデザインのグラスや皿はイマイチ人気がなく。ガイゼイル商会などが扱う細部に意匠を凝らした派手なものが人気なのだと言う。そういったガラス製品を作ることも出来るのだがそれに納得できなかったアルカンは自分の感性が時代遅れになったと思い引退を考えてしまったらしい。
「それに…」
アルカンは続ける。
「最近は簡単な注文ばかりでの…。職人は壁を超えなければ己の腕を上げられぬ。最近はそんな職人の魂を奮い立たせるような注文もなくての…」
『市場の人気の変化とモチベーションの低下か…。説得はちょっと大変かも…』
そんなことを思いながら話を聞いていたミナトはカウンターに置かれたグラスが琥珀色の液体で満たされていることに気が付いた。その瞬間にミナトの目が希望に満ちる。話を遮りアルカンへと声を掛ける。
「すいません、アルカンさん!つかぬことを聞きますが…?」
「なんじゃ?」
「ドワーフの方々はやはりお酒が好きですか?」
「唐突にどうしたんじゃ?当り前じゃろ?何を言っとる。酒を好まぬドワーフなど聞いたこともないわ!」
「あの琥珀色の酒は…?」
「燻り酒をみるのは初めてかの?麦から造った酒を樽で寝かした物じゃて。その途中で泥炭を燃やし独特の香りを付けるがな…」
『やはりウイスキー…』
ミナトには既に明るい笑顔が浮かんでいる。そして重ねて問いかける。
「普段はどうやって飲まれるのですか?やっぱり常温でそのまま?」
「ふん。そういう飲み方もするが、それしか認めないのは尻の青い青二才どものすることじゃ。儂らのようなドワーフは水で割る。それぞれ好みの濃さがあるのでな…」
既にニコニコが止まらないミナトである。そんなミナトを不思議そうに見守るシャーロット。
「もし、おれが他にも美味しい燻り酒の飲み方があるって言えば信じてくれますか?」
「なんじゃと!?」
ミナトの言葉にアルカンの目がきらりと光った。そしてそれを見逃すミナトではなかった。
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