第23話 グラスを探して
太陽は夕日と言っていいくらいに傾き、オレンジの西日が王都を染め上げる。
「ここがアルカン工房か…」
「ガラス工芸家としての腕は確かで人気もあるけど最近はあまり注文を受けてないらしいってギルドでは言っていたわね…」
「気難しい職人だからなのか…、何か他に理由があるのか…」
「とりあえず入ってみましょう」
「ああ…」
からんからんからん。
アルカン工房のドアを開けるとベルが鳴る。しかし店舗用のスペースと思われる空間には誰もいなかった。
「誰もいないのかな…?ごめんくださーい?」
とりあえずカウンターの向こう側…、店の奥へと呼び掛けてみるミナト。
「………返事がない。寂しいな…」
お約束のようにそう呟く。
「ミナト…。何をブツブツ言っているの?」
そう言いながらミナトの顔を覗き込む美人のエルフ。
「い、いや…。ポートピアではお約束かなって…」
「?」
遠い昔のゲームのお約束から話題を変えようとしたミナトであるが視界に入るグラスに目を留めた。
「これは…」
思わず手に取る。それは透き通ったかなり薄手のガラスで造られたグラスであった。シンプルを極めた見事な造りが職人の腕の確かさを示している。
「薄い
そう呟きながらも自然と笑顔になってくる。
「ミナト…?」
そう声を掛けられはっとする。
「ご、ごめん。シャーロット。つい自分の世界に…」
「そのグラス?」
「どうかな?おれとしてはさっきチラ見したガイゼイル商会のゴテゴテしたグラスよりもこっちの方がいいと思うのだけど…」
そう言いながら手にあるグラスをシャーロットへ見せる。
「シンプルだけど美しいってやつね…。確かにこっちの方がミナトに合っているように感じるわ」
「これをジンソーダで満たしたら…」
「それは素敵だと思うわ!!注文と同時に一つ買っていきましょう!!」
鼻息も荒く食い気味に同意する美しいエルフ。
「まあ、待って!落ち着いてシャーロット。買うとしたらもう一回り大きいやつだ」
「大きいグラス?」
「ああ。おれの世界の単位でこれは二六〇ccくらい。水を飲むならこれで十分だ。…そう言った意味ではこれも注文の対象だけど、ジンソーダを注ぐとなると出来れば三六〇ccくらいのやつが欲しい…」
「大きさも重要なのね?」
「特に決まったルールがある訳ではないけどね…。ちょっとそこはこだわりたい…」
そんな話をしていると、
「待たせてすまなかった!」
そう背後から声を掛けられた。
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