第22話 レモンを買って職人街へ
「やっぱりあれもテンプレってやつだったのかな…。それにしても結構落ち着いていたものだ…。これも『泰然自若』ってスキルの効果なのか…」
そう呟きつつもミナトはシャーロットと共に商業ギルドで教えて貰ったドワーフが営んでいるという工房を目指す。商業ギルドで聞いたところによると随分と職人
『注文を聞いてもらえると嬉しいけど、どうなることか…』
そんなことを思いながら歩みを進めていると、景色が変わり通りには食料品店が多くなってくる。
「シャーロット、この通りは?食料品店街って感じなのかな…?」
「そうね。マルシェとは違って店舗で食料品を扱うところも多いわ。ここはそんなお店が集まっているところね。生産者が直接販売するマルシェの方が新鮮さは上と言われるけれど、ある程度品質の良い食品を安定して仕入れる場合には店舗と取引する方が確実と言われているわね」
すっかり機嫌も直ったのかに笑顔で説明してくれる美しいエルフである。
「その辺は日本と大体同じかな…」
「ミナトのいた世界でもこんな感じだったの?」
「ああ。産地直送という方法で生産者と直接取引して新鮮な食品を仕入れることができたんだ。だけど新鮮…、つまり鮮度がよい反面、品質や品数は一定しないからこっちを重視する場合はいろいろな食品が集められる市場が利用されていたね」
そんな話をしていると青果店と思われる店舗の店先で馴染みのある黄色い果物がミナトの目に飛び込んできた。
「レモンだ!やっぱりこっちにもあったんだ!」
思わず声が上がる。バーテンダーとしてレモンは重要な果物だ。
「ミナトはレモンを知っているのね?リムと同じくらい一般的な果物の一つよ」
シャーロットがそう言ってくる。
「レモンは同じ呼び方なんだ…。やっぱり酸っぱい?」
「ええ。とっても…。この世界では揚げ物に絞ったり、ハチミツと水と混ぜて夏の飲み物にしたり…。お酒に入れるときの使い方はリムと同じね…」
「基本的な使い方が同じだ…」
「ミナト、これもカクテルに使うの?」
「ああ。いろいろと使い道がある。ライム…、リムの実と大体同じように使えるんだ。ちょっと味が変わるから、どちらが美味しいかは個人の好みだね。それにさっきシャーロットが言っていたハチミツと水とで混ぜる飲み物は炭酸水を使っても美味しいよ」
炭酸水という単語にシャーロットの目が輝く。
「ハチミツとレモンと炭酸水…。すっごく美味しそうね!!あ、ハチミツも売っているわ!ね…、ミナト…」
「えっ??」
「お願い…」
「???」
突然、うるうるとした瞳で縋るように見つめられるミナト。シャーロットは本当に美しい顔立ちをしている。その美しさに加えて、こんな潤んだ瞳を伴ってお願いされたら抵抗できる男なんているのだろうか…。
「そ、そうだね…。レ、レモンと…、ハ、ハ、ハチミツを買っていこうか…。あ、た、炭酸水は宜しくね?」
スキル『泰然自若』はどこへやら…。顔を赤く染めながら必死にミナトは回答する。
「任せておいて!」
そんなミナトに気付いているのかいないのか…、ドヤっと胸を張る美しいエルフ。薄手のセーターから穏やかに主張する見事な曲線を湛えた膨らみから必死に視線を逸らしながらミナトはレモンとハチミツを購入するのだった。
「さてと…、では当初の目的であるドワーフの工房を目指しますか?」
「ええ。そうしましょう」
買い物を終えてしばらく商業地区を移動すると、再び景色が変わってきた。
「この辺りからが職人街かしら…」
そう呟くシャーロット。確かに建物の趣が変わり、いかにも工房といった風情の街並みが視界に入ってくる。それぞれの店頭では商品も販売しているようだが、奥に広そうな数々の建物は店舗と工房を兼ねてのものだろう。
「えっと…。たしかアルカン工房って名前だったよな…」
商業ギルドで聞いた工房名を思い出しながら、目当ての工房を探すミナトとシャーロット。
「あ…、ミナト!あそこみたいよ」
シャーロットにそう言われてミナトが視線を移したその先…、幾分か小さい建物の軒先には確かに『アルカン工房』と記した看板が掲げられていた。
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