第20話 王都の物件をみてみよう

炎竜の紅玉レッドオーブか…。?そっちなのかな…。店を持つって時はがお約束だと思ったんだけど…」


「ミナト…?さっきから何を言っているの?」


 ブツブツと呟きながら歩いているミナトの顔をシャーロットが覗き込む。


「…!?どぅわっ!!!ご、ごめん、シャーロット…。ちょっと考え事を…」


 突然の如く視界に現れた絶世の美女に盛大に驚く。まだまだ慣れないミナトである。


「考え事…?」


 そう言って首を傾げながら興味深そうにこちらを覗き込むその表情は本当に可愛らしい。距離が近いと思うミナトである。


「い、いやー、店を持つときはで馬車を借りるときはかなって…」


 思わずこの世界の人達に絶対に分からない内容を口走るミナトであった。シャーロットには後で説明することで許してもらう。


「本当に仲がよろしくて羨ましいですにゃ」


 そんな二人を見てそう言うのは商業ギルドの物件担当者。猫人ワーキャットと呼ばれる獣人らしく可愛い猫耳がぴこぴこしている様子は微笑ましかった。ここは王都の大通り。商業ギルドで物件を確認した二人はシャーロットが興味を持った物件の内覧を申し込みギルド職員と共に向かっているところである。


「こちらがその物件となりますにゃ」


 彼女の背後にあるのは落ち着いた雰囲気を湛えた木造二階建ての物件であった。場所は王都の歓楽街から少し離れた建物が立ち並ぶ路地裏である。街灯がないので夜の周囲は闇に沈むのだろうがこの店が明かりを放っていれば表通りからでも辛うじて気付くことが可能といったところにその建物はあった。


 近くの人通りは多かった。シャーロットが言うように職人街、商業地区、学生街から程近いためだろうか…、ドワーフ、エルフ、多様な獣人、そして人族と実に様々な種族が行き来している。彼らの職業も多様であるらしい。そしてマルシェは少し離れたところに開かれるというが、周囲に食堂のようなものは多くはないとのことである。


「この周辺は物件が高額ですし、それに合わせて家賃もかなり高い傾向にありますからにゃ…。そして特にこの物件は条件が厳しいですにゃ…。飲食店をこの辺りに開くのは理に適っているとギルドでも考えていますが、主に資金の問題からこの周囲で開業される方がこれまでおられなかったというのが現状ですにゃ」


 ギルド職員はそう答える。


「夜の雰囲気も確認したいね。それは後日にして建物を確認しようか?」


「ではこちらどうぞですにゃ…」


 ギルド職員に促されてミナトとシャーロットは建物内へと足を運ぶ。


「一階はこちらが入り口ですにゃ。そしてこちらが客席用のスペースですにゃ。現在は閉めていますけれど、採光率は高めの造りになっていますにゃ。そしてトイレがこちらですにゃ」


 一階に広めの入り口とかなり大きな窓が据えられている。外に樽などを置いて立ち飲み可能にするのであればこの窓と取り払い入口をさらに大きくして開放的なデザインも不可能ではないと思うミナトである。客席用のスペースと言われた入ってすぐのフロアは天井が高く美しい石造りの内装は見事なものであった。あちらこちらをよくよく確認するミナトである。入り口付近にあるトイレの位置も問題ない。


「厨房スペースはこちらですにゃ」


 フロアの奥に大きめの扉で仕切られたその先には厨房用のスペースが造られていた。本格的なビストロを開くことができそうなほどのスペースが厨房に割かれている。


「これは贅沢にスペースを…。そしてスケルトンか…。物件を購入した場合であれば設備はこちらの自由ということかな?」


「はい。そのようになりますにゃ」


 悪くないと思うミナト。


「テラスはやらないにしても…、カウンターを七席から十一席って考えて…、それでもカウンターの座席間に余裕ができるな…。そして四人掛けテーブル席が二つ、いや一つでいいか…。あそこをバックバー酒を置く棚にしたとして…、それでもカウンター内は百二十センチ以上の余裕を持って…、そしてお客のメイン通路も同じくらい取れそうだ…。これは贅沢かも…」


「酒場や食堂に使用する物件としては最高の部類に入るかと思いますにゃ」


 ギルド職員が胸を張る。


「そう言えば二階へはどうやって?外に階段はなかったみたいだけど…?」


「こちらですにゃ」


 そう答えたギルド職員が二人をいざなう。


「厨房のこちらの扉が倉庫用のスペースですにゃ。もう一方のこちらの扉が休憩用として造られたもう一つの部屋に繋がっておりこちらに二階への階段がありますにゃ。そしてもう一つの出入り口があり表通りに繋がる路地に面していますにゃ」


「倉庫用のスペースまである…。それも結構広い。ワインセラーなんてのもあれば余裕で置けるのか…」


 二階は必要な柱以外は完全なスケルトンであり、好みに改装できるようになっていた。


「なるほど、なるほど…」


 色々と納得するミナトであった。


「ミナト!どうかしら?」


 シャーロットが尋ねてくる。


「ああ。この物件はイイと思う。一応、もう一つくらい他の物件と比べてみたいし、夜の雰囲気も知りたいけれど、今はここを第一希望にしよう!」


「ということは冒険ね?」


「そうなるかな?」


 二人は笑顔で互いの視線を交わすのであった。

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