第18話 朝の王都と商業ギルド
「さてと…。今日は商業ギルドに登録して物件を探す予定だったよね?」
「いい物件があるといいわね」
のんびりとそんなことを話しながら朝食を済ませ山猫亭を後にするミナトとシャーロット。春の柔らかな日差しと共に心地よい風が吹き抜けるとても清々しい朝となった。
ミナトは昨晩のマルシェで買い求めたジーンズによく似た綿からなる紺色のパンツと同じく綿製のグレーな長袖のシャツを着ている。この季節の一般的な装いとのことだった。ちなみに靴は日本にいたときから履いていたスニーカーをそのまま使用している。
シャーロットも今日は魔導士風の装備ではない。グレイッシュブルーのワイドパンツとベージュのニットからなる薄手のセーターという装いだ。足元もブーツではなくサンダルを履いている。すらりとした肢体にその装いはよく似合っており、柔らかいニット素材によって逆に強調されてしまう美しい上半身のラインは周囲の視線をきっと集めることになるだろう。
そんなシャーロットを奇麗だと思いつつミナトは王都の街並みを確認する。街は午後に到着した昨日とはまた違う様相を呈していた。既にそこかしこにマルシェとしての出店が立ち並び賑やかな声が聞こえてくる。夜のマルシェは既成の料理、香辛料、酒、衣類、雑貨のようなものが商品の中心であったが、朝のマルシェは肉、魚、野菜、パン、デニッシュ、乳製品などが中心となるらしい。扱われている品物はどれもが良い品であることを思わせるものばかりだ。そしてどうやら場所、時間帯、商品で住み分けができているらしい。いずれはいつ、どこに、どんな店が出るのかを把握して仕入れに活かしたいと思うミナトである。
マルシェの出店とは違う各種商品を扱う小売店のような商店も、大きな取引を中心に行う商会もこの時間帯ぐらいから動き出すらしい。こちらはこちらで信頼のある取引ができる人と出会いたいと思うミナトであった。
そしてそれらに集まる多種多様な品々を求めて多くの人々が訪れていた。
「すごいな…。見事に商業が発展している…」
ミナトは異世界の雰囲気に圧倒されつつ感心して思わず呟く。
「そうね。王都には教育機関や研究機関がたくさんあるから学生も多いし職員も多いわ。近くに複数のダンジョンがあることから幅広い階級の冒険者とその活動を支える各種の職人も集まってくる。だから各種商品の需要はすっっっっごくあるのよ。街道も発達しているし少し離れるけど大河ナブールもある。そこからの運河が造られていることに気付いた?陸路と水路を使って多くの物がこの王都に集まってくるわ」
「そう言えば水道が整備されていたね…。あれもその大河ナブールから水を引いているのかな…?」
「ええ。『浄化の魔石』っていうものが発明されて水を大量に浄化できるようになったの。上水道と下水道の両方でこの魔石を使うから、きれいな水を使用できるようになって汚れた水を垂れ流すことが無くなったわ。ただ『浄化の魔石』はなかなか高価なの。ここまで大々的に導入できるのは王都の財力があってこそかしらね…。小さい町や村ではここまではできないと思うわ」
「王都は発展しているってことか…」
そんな話と共にあちこちと見物しながら歩いていると昨日訪れた冒険者ギルドと同じくらいの大きな建物が視界に飛び込んできた。ただ冒険者ギルドの建物よりもなんだか洒落ているような印象を受けるミナトである。
「着いたわ、ミナト!ここが商業ギルドよ!」
そう言うシャーロットに連れられるようにギルド内へと足を踏み入れる。一階がホールを中心にして造られている構造は冒険者ギルドに似ていると思ったが、集まっている人々は冒険者のような荒くれ者ではなく一般人のようである。
「ここで登録と物件を探すことになる…」
「ミナト!こっちよ!」
相変わらず異世界の雰囲気に圧倒されているミナトをシャーロットが窓口まで引っ張っていく。
「いらっしゃいませ。ようこそ商業ギルドへ。こちらへどうぞ!」
複数あるブースの席から立ち上がった受付嬢がにこやかに手招きしながら挨拶をしてくる。ミナトはシャーロットを伴い受付嬢が待つブースへと赴くのであった。
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