第16話 この世界で生きる

「こ、こちらが…、え、え、F級冒険者証です。あ、あ、あの…、ほ、ほ、他に…、な、何か、ご、ご質問等がございますか?」


 先程の戦いを観ていた冒険者ギルドの事務員が真っ青な表情で震えながら赤色で首から下げる形の小さなプレート…、F級冒険者証を手渡してくる。


 二人はダミアンの命だけを助けデバフ効果はそのままにしておくことにした。そんな戦闘を目撃した彼女からはいろいろと質問を受けたがシャーロットが全て冒険者としての秘密と言って片づけた。ギルドのホールは騒然としている。B級冒険者のダミアンがF級冒険者に負けたという話が広まっているのだろう。それは置いておくとして怯えながらも事務員の彼女は冒険者について簡単な説明もしてくれた。


 冒険者にはS級からF級までの七つの階級に分かれており、それぞれ冒険者証となるプレートの色で区別される。


 S級冒険者:白金プラチナ、人外の存在…この世界にほんの僅か


 A級冒険者:金、超一流…この国にほんの僅か


(以上の冒険者は滅多に遭遇することが出来ない)


 B級冒険者:銀、一流…この国に数人


 C級冒険者:銅、上級…この国に数十人


 D級冒険者:鉄、普通…この国に数百人


 E級冒険者:青、見習い…多すぎて計測不能


 F級冒険者:赤、初心者…多すぎて計測不能


 随分と裾野が広いピラミッドである。ダミアンも本来は強かったらしい。聞けば犯罪者、元犯罪者、指名手配犯などでなければ誰でも赤いプレート…、つまりF級冒険者証を持つことが可能とのことだ。個人登録も能力の判定も行われなかった。シャーロットに聞くと個人レベルの登録は特殊なスキルを持っている者の情報を教会や王族、貴族の関係者から得られた時だという。A級以上の冒険者も登録されているらしい。


 ちなみに階級を上げるためには定期的にギルドで開催される試験に合格する必要があるとのことだ。ただ、それもB級まででそれ以上は特別な業績が必要らしい。


 そして簡単に依頼が貼ってある掲示板と素材の受取所の場所と対応方法を説明された。


 冒険者証となるプレートは純粋に階級を示すものであり、A級以上でなければそれ以外の意味を持たないとのことだ。物凄く乱暴に言うと他人から奪って別の階級を名乗っても誰も見咎めはしないということになる。ミナトが読んでいたファンタジー小説の冒険者ギルドに比べて随分とザルな設定であった。


「冒険者なんてそんなものよ。限りなく自由の代わりにリスクもあるってことかしらね…。パーティもA級以上でなければ登録の必要はないわ」


 シャーロットは平然とそう言っている。


「ま、現実はこんなものなのだろうな…」


 そう言って納得するミナト。


「ところで王都の宿を紹介してくれないかしら?可能であればお風呂がある宿がいいのだけれど?」


 異世界と自分の認識との差に折り合いをつけているミナトを横にシャーロットが事務員にそんなことを聞いている。


「お風呂ですか…。多少お高くなりますが山猫亭などいかがでしょうか?」


 そう言って事務員は説明文と共に絵が描かれたいくつかの書類を提示する。


「ふむふむ…いいところね…。山猫亭に行こうと思うわ。地図をお願いできるかしら?」


 こういったことはシャーロットにお任せである。まだこの世界での生活力を身に着けたとは言えないミナトであった。無事に…、とは言えないかもしれないが冒険者登録を済ませ今夜の宿の地図を手に入れた二人は未だ喧騒の最中にある冒険者ギルドを後にする。外に出てみると街は本格的な夕日に照らされていた。


「なんとか目的は果たせたわね」


 うーんと伸びをして笑顔で話す美人のエルフ。何気ないその仕草に気品と美しさを感じてしまうミナトである。


「………あれでよかったのかな…?」


 シャーロットの魅力のことを脇へと追いやりそんなことを言うミナト。魔物相手ではない初めて対人戦、スキル『泰然自若』のせいか特に違和感はなかった。それはそれで少し怖くなるミナトである。


「ミナト…?大丈夫?」


 心配顔をする美人のエルフ。


「…対人戦は初めてだった…。この世界で生きる覚悟を問われたような気がする。でも心配ない。覚悟なら決まっている。おれはこの世界で生きるんだ…」


 そう呟くミナト。


「ね!ミナト!!」


 そう言ってミナトの右腕に唐突に両腕を絡めるシャーロット。


「ナンデショウ!?」


 その柔らかい感触に思わずシドロモドロになるミナト。


「何よ!これくらいで狼狽えないで!…そうじゃなくて!まだ時間があるわ…。宿に部屋を取ったら少し買い物に行かない?いい材料が見つかったらまたあなたのカクテルが飲みたいわ!」


 気を使ってくれたのだろうか…、シャーロットの笑顔に救われたような気がするミナトであった。


「いいね!何ができるか探してみよう!」

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