第15話 お約束的な戦いを…

「ダミアンさん!こんなことをされては困ります!!」


 シャーロットをナンパしたムサイ男の冒険者はダミアンという名前らしい。ギルドに併設された練武場のようなところの中央に立つダミアンに必死に注意している女性はギルドの事務員である。どうやらダミアンはB級冒険者であるらしくギルドの事務員も強くは出られないようだった。そんなダミアンに面と向かって立っているミナトである。ミナトの後方でシャーロットが微笑んでいた。


 ギルドのホールでぴったりとミナトの右腕へと纏わりついたシャーロットは内心慌てるミナトを余所にゴミを見るかのように見下した表情でダミアンにこう言ったのだ。


あなたダミアンミナトより強かったらこのエルフの寿命が尽きるまで、あなたの奴隷なり、子猫ちゃんなりになってあげるわ!ただし!!もしミナトに負けるようなら二度と冒険者として活動できなくなるわよ!?それでもいいならミナト模擬戦する戦ってみる?」


 あとはジェットコースターのように展開が進みミナトはこうしてダミアンを前に立っている。


「どうしてこうなった…?」


 思わず呟きが漏れる。


「ミナト!私がやるならあいつの消し炭すら残す気はないのだけど…、折角だからミナトの練習台にしちゃっていいわ!それに冒険者じゃなくてもあんな奴に目を付けられると後々面倒よ?この世界では実力行使が必要な時があるものなのよ」


 どうやら無礼なナンパにかなり怒っているらしい。だがミナトはその言葉に一理あると感じていた。シャーロットの話ではこの世界の警察機構的なものは領主や王城付きの衛兵や騎士団が受け持ってはいるが自衛が基本とのことである。自分の心と折り合いをつけたミナトであった。


「やるしかないか…、こ、殺さないように頑張るよ…」


 そんな二人のやり取りを聞いていたダミアンの顔と禿げ頭は赤を通り越して赤黒くなる。


「ぶっ殺してやる…。てめえのエルフは俺様がこれから先何年もの間、たーーーっぷりと可愛がってやる!」


 何を妄想しているのか下品に舌なめずりをするその様子はミナトから見てもちょっとキモい。


「だから安心して死ね!!」


 酷いことを言いながら鉄製だろうか、巨大な大槌を構えた。今にも飛び掛かりそうである。


「エルフの姉ちゃん!合図しな!あんたが俺様の奴隷になる記念すべき開始の合図をよ!!!」


 そう喚きたてるB級冒険者のダミアン。そのとき、


堕ちる者デッドリードライブ…」


 ミナトの呟きは周囲の誰の耳にも届かなかった。唯一、後方に控える美人のエルフを除いては…。


「後悔しても知らないわよ…。ミナト?準備は?」


「大丈夫…」


「わかったわ。では…、始め!!」


 シャーロットの美しい声が練武場に響いた。


「死ねこらあ!!!」


 そう言いながら巨大な大槌を上段に振りかぶるダミアン。振り下ろそうとしたその瞬間、異変が訪れた。


 ボキィ!!!


 盛大な不快音と共にダミアンの両腕が不自然に折れ曲がる。さらに前傾と共に思いっきり振り下ろそうとしていた大槌の先端がダミアンを背後から地面へと押しつぶした。


「ぐぼぼぼおおおおおおおおお…」


 ありえない音を出しながらもがき苦しむダミアン。見物していた幾人かの冒険者と事務員は絶句している。至高のデバフ魔法である堕ちる者デッドリードライブがダミアンの能力である大槌を振るう筋力を大幅に低下させたのだ。低下させる絶妙のタイミングは王都に着くまでに訓練を重ねたミナトの成果である。


「勝負あったわね。貴方に二つの道を与えるわ。一つ、このまま死ぬ。二つ、回復するが元の力は失われる。どちらがいいか死ぬまでに選びなさい!」


 そんな言葉をかけるシャーロットが本来の優しさからダミアンを助けることを確信していたミナトはこの世界での初めての対人戦が終了したことに安堵するのが精一杯だった。

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