第14話 王都の冒険者ギルド
まだ夕日とは言えないが少し傾きかけた春の暖かい陽射しによって王都の街並みがオレンジ色に照らされる。石造りの建物や王城、そして木々の緑が鮮やかに照らされるその光景は見事なまでに美しかった。そんな王都の巨大な城門へと並んでいる人々の最後尾に二人の男女が到着する。
「ふふ。お疲れ様。日暮れ前に着けてよかったわ」
そう話す女性はブーツ、レギンス、ショートパンツ、動きやすそうな上着の上からローブを羽織っている魔法使い風の装い。フードを被ってはいるがその美貌を完璧に隠すことはできていない。エルフのシャーロットである。
「今日ってとりあえず冒険者ギルドに行くって話だったよね?」
そう答えるのは男性用のブーツ、ジーンズによく似たパンツ、簡単な上着の上からマントを羽織った冒険者風の装い。シャーロットからこの世界の冒険者として一般的な服を貰ったミナトである。
「ええ。先ず冒険者ギルドで冒険者登録をしてついでに宿を教えて貰いましょう。店を出すためには商業ギルドへ登録する必要があるからそっちにもいく必要があるけど、一応の拠点の確保とミナトのお金以外の収入を得るためには冒険者になってしまった方が楽だわ。私も研究所を出奔するときそんなにお金は持ち出せなかったからね。そして明日以降が商業ギルドへの登録と物件探しになるわね」
「街も見て回りたいな…」
「物件を回りながらいろいろと見ることにしましょう」
「楽しみだ!」
そんな話をしていると徐々に列が前へと進む。
「シャーロット。城門ではどんなことを…?」
「指名手配になっていないかの確認よ。魔道具で自動的に確認するからそれほど時間はかからない。ゆっくり歩いて通り抜ければそれで問題ないわ」
「なるほど…」
自分の出自や身分を証明するものが何もないことを不安に思っていたミナトであるがシャーロットが言うように拍子抜けするほど簡単に王都に入ることが許された。
「すっごく賑わっている…」
呆然と呟くミナト。城門から王都に入ってすぐのところだが、視線の先の小道にはマルシェの如く屋台が並び様々なものが売られていた。そして人族、獣人、エルフといった様々な種族が行き交っている。
「ミナト!こういったマルシェはあちこちにあるわ。今は冒険者ギルドで宿を取ることに集中しましょう」
「ここでもマルシェって言うんだ…。話が楽で助かるな…」
シャーロットに手を引かれるように連れられながらもそう呟くミナト。大きな通りを歩いて行くと五階建てはあるだろうひと際大きな建物が飛び込んできた。
「ここが冒険者ギルドよ!」
示された看板の文字はミナトが知っている地球の文字とは似ても似つかない不思議な文字だが何故かミナトは読むことが出来た。書くことも出来そうである。確かに『冒険者ギルド』と書いてある。
「先ずは受付に向かいましょう」
そう言うシャーロットの後について冒険者ギルドの建物へと入る。建物の中は多くの冒険者で賑わっていた。
「ちょうど依頼を達成した冒険者達が戻ってくる時間とぶつかったみたいね。ええと…。あったわ。こっちよ、ミナト!」
二人は列の後ろに並ぶ。そうして並んでいる二人に声を掛ける者がいた。
「よう!姉ちゃん!エルフの女が冒険者か?」
随分とゴツイ筋肉に覆われた髭面で禿げ頭の冒険者である。身長は二メートルくらいとかなり大きい。余り風呂に入っていないのか
「それが何か?」
普段の優しく気遣いをしてくれるシャーロットとは随分違う声のトーンだとミナトは思う。どうやら気分を害しているらしい。
「こりゃエルフの中でも滅多に見ない上玉だ!!どうだ?俺達と飲まないか…って、それだけじゃ勿体ねぇな!!そんな男が相手じゃ楽しめないだろう?俺様が一晩中可愛がってやるぜ?」
そう言われたシャーロットはゴミを見つめるような視線をその冒険者に送りつつミナトの右腕へと両腕を回して纏わりつく。
「?」
スキル『泰然自若』の効果がある筈なのだが、ぴったりとくっつくシャーロットのその柔らかい感触に戸惑わずにはいられないミナトである。
「ごめんなさい。貴方みたいな臭くて汚くてムサい男は趣味じゃないの。それに相手は間に合っているわ。…ゴミはとっとと消えてくれないかしら!?」
シャーロットがそう告げた瞬間、周囲が一気に言葉を無くし、凍りついたかのような沈黙がギルドのホールを包み込んだ。大男は顔面からその禿げ頭のてっぺんまでを真っ赤にしている。
「後悔したいらしいな…。その男を八つ裂きにしてやろうか…」
繰り広げられる一連の光景を目の当たりにしたミナトは呟くのが精一杯だった。
「これがテンプレってやつか…」
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