第13話 王都へ

「何これ…。ディルス白金貨じゃないの!?それもこんなに…」


「この世界に転生する前は開店工事の費用として日本のお金が入っていたけど、こちらに来たらこうなっていた…」


「これだけあれば開店資金は大丈夫だと思うわ!」


「そ、そうなの?」


 湊が持っていた大量の金色に輝く貨幣は『ディルス白金貨』というものだった。そして白金貨を含む『ディルス貨幣』はこの世界で主要かつ最も信頼されている通貨の一つであるらしい。よくよくシャーロットに価値を尋ねてみると日本の通貨に換算すると次のような価値であることが判明した。


 ディルス鉄貨一枚:十円


 ディルス銅貨一枚:百円


 ディルス銀貨一枚:千円


 ディルス金貨一枚:一万円


 ディルス白金貨一枚:十万円


 バッグの中にみっちりと納まっていたディルス白金貨はなんと三百枚。三千万円相当が入っていたことになる。


「…そこまでは入っていなかったのだけれども…」


 と困惑する湊。


「いいじゃない?たくさんあって困るものではないわよ?」


 シャーロットにそう言われ『ま、考えても仕方がないか…』と諦めた湊である。彼女が言うには、一軒家の購入価格は貴族が住むような高級住宅地でなければ、どんなに高くてもディルス白金貨二百枚程度ではないか、とのことだ。残りを備品と酒の購入に充てれば開店までこぎ付けることができそうだと考える湊。


「よし!そうと分かれば魔法の訓練をしながら王都を目指しましょうか?」


「お願いします!」


 思わず頭を下げる。


「うむ。師匠を敬うのはいいことよ!思う存分敬いなさい!」


 何回目かの、ドヤっとポーズをとる美人のエルフ。


「ははー」


 乗っかる湊…。そうしてやっぱり奇麗だと思うのであった。


「冗談はそのくらいにして…。ミナト。もう一つ提案があるのだけれど…」


「提案?」


「ええ。あなた名字があるでしょ?この世界で名字があるのは貴族だけだから、貴族を名乗らないのなら今後は名前だけを使う方がいいと思うの」


 そう言われて湊も納得する。日本にいた頃に読んだ異世界ファンタジーものにも似たようなくだりがあったのを思い出した。


「そうしよう。今日からおれはミナトだ。改めて宜しく。シャーロット!」


「こちらこそ、宜しく!ミナト!」


 そう言って握手を交わすミナトとシャーロットであった。


 それから数日…。



冥獄炎呪ヘルファイア!」


 そう唱えたミナトの指先に漆黒の炎が灯る。


「いい感じじゃない?冥獄炎呪ヘルファイアに関しても問題ないわね。どれもいい感じに仕上がったんじゃない?ただし悪夢の監獄ナイトメアジェイルを複数出現させないことは守ってね?」


 そう言ってジト目に張り付いた笑顔を向けてくる美しいエルフのシャーロット。


「はははははは…」


 その言葉を聞き、乾いた笑いを出すことしかできないミナトであるが、ここまで到達できことをちょっと嬉しく思っていた。闇魔法はどれも破格の威力と効果を持っていた。冥獄炎呪ヘルファイアでバゲットを温めて、アイリッシュコーヒーを作るくらいの使用であれば問題ない。それ以外については慎重に使おうと心に決めたミナトである。ちなみに今は制御可能な冥獄炎呪ヘルファイアであるが、初めて使用した際に大森林の全てを焼き尽くすほどの巨大な黒炎が生み出されたことは二人の秘密ということにしてある。


 現在、二人はルガリア王国の王都を目指して森の中を移動している。街道に出ることも可能だったが『ミナトの魔法スキルは異常だから他人に見せない方がいいわ』というシャーロットの方針のもと、魔法の訓練を行うため人目に付かない移動ルートを選んだのだ。


 そうして遂に森が終り小高い丘の上に出る。


「ミナト!あれがルガリア王国の王都…。この世界でも有数の大都市のひとつよ!」


 そう言われたミナトの視界に飛び込んできた景色は、中央に王城を頂き、それを中心に広大に広がる数多くの緑地と建築物からなる…、巨大な城塞都市といった趣の街並みであった。


「あれが王都…」


 ミナトはそう呟きながらこれから始まる新しい生活を楽しみにするのであった。

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