第12話 バーテンダーと冒険者
「なんだこりゃああああああああああああああああああああああああ!」
夜の森に湊の声が響く。
「ミナト!ほら!落ち着いて…。ジンソーダ飲む?」
シャーロットが先ほど作ったジンソーダ(リムピール香り付き)を勧めてくる。
ゴクッ、ゴクッ…。飲むと爽やかなジンとライムの風味が広がる。炭酸の刺激がまた心地よい。それらカクテルの全てがゆっくりと体に沁みこむ、そして湊が心に落ち着きを取り戻す。
「……………ふー。ありがとう。シャーロット…。つい取り乱してしまった…」
「うんうん。仕方ないと思うわ」
「それにしてもシャーロット!この世界に転送される時って、神の意志みたいなものが働いてるのか?この解説、誰かがバーテンダー用に作ったとしか思えないんだけど…」
そう言って二人は先程表示された闇魔法の解説を再び覗き込む。
「うーん…。そもそもステータスがどうして表示されるかってよく分かっていないのよ。遥か昔から当たり前だったから研究対象とかにならなかったのよね…。最近、そういう研究も聞いたことがあるけどあまり成果は出てないみたい。そして神の意志ってミナトが言っていたものだけど、この世界を創造した唯一の神のような、全ての宗教を超えた創造主のような存在がいるのかっていう研究があるのだけれども、創造主のような存在はまだ確認されてはいないわね…。だから、ごめんさない。ミナトのステータスがどうしてこんな表示になったのか今は分からないわ」
「なるほどね。これ以上は考えても仕方ないか…。でも闇魔法…。どうやったら使えるのかな…?」
そう言って首を傾げる湊。
「ミナト!それを含めて提案があるのだけれども聞いてくれる?」
そんな湊の顔を覗き込みながらシャーロットがそう問いかけてきた。ものすごい美人との距離がここまで近いとやっぱり少し落ち着かない湊である。
「私とミナトで冒険者のパーティを組まない?」
「え?」
唐突な話に湊は驚く。
「ミナトはバーテンダーの仕事がしたいって言っていたわよね…。それってお酒を飲むお店を開業するってことよね?」
「そうなるかな…?正確にはBarと書いてバーって読む店だね」
「そのBarっていうお店を開くことに関しては大賛成よ!私もミナトのカクテルが飲みたい。そしてカクテルを作るためにお酒を冷やしたり、氷を手に入れるには魔法が不可欠だわ。私は最大限それに協力したいと思っている。むしろミナトのお店で働かせてほしいくらいよ」
「え?本当?もしそうなら本当に助かるけど…、いいの?」
湊の問いにしっかりと頷くシャーロット。
「私は王都で何か仕事を見つけて働きながら冒険者をしたいと思っていたの。だから助かるわ…」
「そうなんだ…」
そんな話を続けていると『あ、ごめんなさい。話が少し逸れてしまったわ…』そう言ってシャーロットは冒険者に話を戻す。
「同時にミナトは冒険者に向いていると思うの。ステータスは完全にそっち向きよ。むしろ暗殺者になれば伝説の存在にまで一直線だわ」
「暗殺者はちょっと…」
「そこで冒険者よ。冒険者は危険ではあるけれど、あの闇魔法が使えるなら大体の困難は問題にならないわ。パーティを組んだら私もいるしね。そして危険の分だけ報酬は大きい。この世界を見て回るのに好都合だし、貴重な品々を手に入れるなら冒険者をするのが近道よ。ミナトがバーテンダーとして使ってみたい食材や道具は冒険者をした方が手に入りやすいものも多いと思うわ。今は春だけど冬季になったら王都も物流が滞るから仕入れの観点からも冒険者の伝手がある方が何かと便利だと思うの。だからバーテンダーの仕事をしつつ、時々は冒険者をするっていうのはどうかしらって思ったのよね」
そう言われるとそうかもしれないと湊は思う。危険が少ないのであれば日本で読んだ異世界ファンタジー小説のような冒険が出来るかもしれない。せっかく若い二十一の姿になったのだ…、世界を巡ることや冒険には男として少なからず興味が湧いてくる。そして湊はシャーロットを信用していた。この世界においてシャーロットと会わなければ魔熊に襲われて確実に死んでいた。その命を救ってくれ、このように気遣ってくれる彼女は、湊にとって間違いなくこの世界で最も信頼すべき人物である。その彼女の提案だ…。信じることに躊躇は無かった。
「シャーロット…。いろいろと心配してくれてありがとう。もしおれに冒険者として活躍できる力があるのならバーテンダーと冒険者をやってみたいと思う。魔法の使い方とか…、いろいろと教えてくれる?」
「もちろんじゃない!任せて頂戴!魔法を教えることについてはこの世界有数だと思うわ!この世界のこともきちっと教えてあげるわね!」
ドヤっとポーズを決めるエルフ。本当に奇麗だと本日何度目かの感心をする湊である。
「ミナトがそう言ってくれてよかったわ。これで開店資金も大丈夫ね…」
「開店資金?あっ…」
そう言われて湊は思い出す。
「王都の物価はやっぱり高いわ。開店資金も冒険者の報酬で賄うのが近道だと思ったのよ」
「……………これがあるのだけれどシャーロットはこの価値が分かるかな?分かるなら教えてほしい…」
そう言って湊は日本から一緒にやってきたバッグの中身を見せる。そこには金色に輝く貨幣と思しきものが大量に入っていた。
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