第9話 ステータス
湊はステータスに関しての自分の認識をシャーロットに説明する。
「なるほど……。ミナトのいた世界ではステータスを見ることが出来ない。というかそもそもミナトにとってステータスはミナトの言っていた異世界ファンタジー……、物語上の産物という訳ね……」
うんうんと頷くシャーロット。パチパチと薪が爆ぜ焚火の炎がゆらゆらと周囲を照らしている。夜の闇の中、その炎に照らされる表情は相変わらず美しい。
「でもこの世界では各個人が己のステータスを確認することが出来るわ。本来は子供の時に教会とかで見てもらってから定期的に確認するのだけど、その魔法は私も使えるから大丈夫!」
「……なんだか見たくなってきた……」
「ミナト!ちょっと待ってほしいの。ステータスを見る前にその説明をしないとだめだと思うのよ…」
自分のステータスに興味を持ってきた湊にシャーロットが言う。
「説明?」
湊は首を傾げる。
「ええ。本来、この説明はステータスを見せる前に親が子にするものなの。そうしておかないとステータスの内容を誤解して人生を間違えることがあるのよね……」
「人生を……?なんだか怖いな……」
「そんな難しいものでもないわ。まあ、聞いてちょうだい」
シャーロットの説明ではこの世界のステータスは大きく分けて三種類の項目が表示されるという。
「【可能性】、【保有スキル】、【保有魔法】ね…。分かるような、分からないような……?」
「順番に説明するわ。先ずは【可能性】についてね。ステータスを開くと最初に三つの数値が表示されるわ。【攻撃力】、【防御力】、【俊敏性】の三つよ。この数値のことを私たちは【可能性】と呼んでいるの。この数値が能力ではなくあくまでも可能性でしかないということを理解するのが最初のステップね」
「どういうこと?」
「この三つの数値は何をしても変化しない。最初から表示された数値のままなのよね。この数値が高い場合、それに関連する行動についての物覚えはよくなるわ。だから一見すると優位に見えるの。だけどこの数値の差は人生にほとんど影響を与えないことが知られている。昔は数値が高い者が選ばれた存在とかって言われてもてはやされた時代もあったけどね。後になって攻撃力が十なのに剣聖と呼ばれるような剣士になった人とかが現れたりしたのよ。それで今となっては数値が二桁あればあとは努力で何とかなるというのが常識になったの。桁違いの才能と勘違いしないように親が子に教えるわけよ」
「そういうものなんだ……。じゃあ、数値が一桁や三桁以上の場合はどうなるの?」
「一桁や三桁の存在はかなり数が少ないの。全体の一パーセントもいないと思う。ちなみに数値が四桁以上の存在はまだ確認されていないわ。最高で三桁ね。一桁の場合はやっぱりその数値が関連する分野で能力的に劣ることが多いわ。もし冒険者になるのであれば問題があるかもしれない。だけど【攻撃力】が一桁でも商人や教師みたいな仕事をするのには何の問題もないでしょ?今は戦争もほとんどないからやっぱり人生に大きな影響を与える訳ではないのよ。そして数値が三桁の場合は明確に才能があると見做せるわ。冒険者とかになるのであれば、優秀な冒険者への道が開けていると言えるわね…。だけど冒険者はリスクを伴う職業だからもっと普通の仕事に就く人も多いわね」
「なるほど、なるほど、三つの数値はあくまでも目安で人生を決めつけるような物ではないってことね。そういった意味ではこの世界は人生の選択肢がたくさんあるんだな…」
「そ-ゆーこと!」
ビシっと指をさしてウインクしてくるシャーロット。その仕草も美しい。
「次は何だっけ……、えっと【保有スキル】?」
湊の言葉に同意を示す美人のエルフ。
「【保有スキル】は先天的または後天的に得たスキルが表示されるわ。確かミナトの世界には無かったのよね……?ある分野の特殊な才能みたいなもので、スキルがある方がその分野の成長が早いとか、能力が高いとかはよく知られているわ。ちなみに【保有スキル】と【保有魔法】に関しては他人にむやみに見せるものではないの。特に冒険者は弱みに繋がることも多いから完全に信頼している者以外には決して見せないの。ミナトも気を付けてね」
「分かった。気を付けるよ。それにしてもファンタジーだね」
「だけど過信は禁物なの。生まれつき【剣術スキル】を持った者が剣術に秀でるのは間違いないわ。だけど努力を怠れば能力を伸ばすことが出来ないのはスキルを持っていても変わらないのよ。さっき言った剣聖は【剣術スキル】を持っていなかったっていう有名な逸話があるのよね。それに一般人が街で生活する場合、スキルは『あれば少し楽になる』程度のものであることも多いの。中には【鑑定スキル】みたいに商人が喉から手が出るほど欲しがるものもあるけどね……。ちょっと乱暴だけど冒険者とかでなければスキルも高い才能や能力を得るものではあるけれど人生を決める決定打にはならないということになるかしら」
「おれのいた世界でも才能のある人間は確かにいたな……。だけど特化した才能がなくても皆が様々な仕事に就いていたよ。そう言った意味ではおれのいた世界とそこまで変わらないのかな……」
そう言う湊に笑みを浮かべて頷くシャーロット。
「そうかもしれないわね。でも【保有魔法】はちょっと違うかもしれないわ……」
「?」
表情に疑問符を浮かべる湊にシャーロットは説明を続けるのだった。
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