第8話 ピールを使って香りをつけよう
「……………美味しい!」
そう呟いたかと思うとゴクゴクとジンソーダを飲み始める美しいエルフ。あっという間にタンブラーが氷だけになる。
「ふぅ……、すっきりしていて飲みやすい……。……美味しかった。本当に美味しかったわ……。ミナト!これが炭酸水を使ったカクテルの味なのね?」
「ああ。おれのいた世界ではいろいろなお酒を使って同じような飲み方をしていた。この世界でも他の酒を使って同じことが出来ると思う。ま、それは王都に着いてからかな……」
それを聞いたエルフの目が輝く。
「それは凄いわ!ミナト!その時は私に炭酸水を作らせてね!」
「もちろんだよ。シャーロットがいないとこのカクテルは出来ないからね」
「ふふふふ……、こういう魔法の使い方、私は好きなのよ。なんか……、こう……、少し日常が豊かになるっていうのかしら……?強い魔法は魔物を斃したりもできるけど、本来はこんな感じでちょっとしたことで生活に
少し恥ずかしそうに話す美しいエルフの言葉に湊は感じるものがあった。
「生活に
視線を合わせて微笑みあう二人。陽は既に落ちたき火の明かりがゆらゆらと周囲の影を浮かび上がらせていた。
「ミナト……、あの……、もう一杯頂けるかしら?」
シャーロットの言葉に湊は頷く。
「もちろん!じゃあ、炭酸水をお願いできるかな?それとリムの実があるからこの香りを加えてみようか?」
「果汁を加えるの?」
「それでも美味しいと思うけど、今回はこれを使う」
そう言って湊はナイフを持ちリムの実から小さな硬貨くらいの緑色の果皮を切り出した。
「リムの皮?」
「そう!おれ達はピールって呼んでいる。リムのピールだからリムピールかな?」
そう話しながらも湊はジンソーダを作り始める。シャーロットも新たに炭酸水を作り出して協力する。
先程と同様の所作でジンソーダを作った湊は、そのタンブラー上でリムピールを人差し指、中指と親指で挟む。そうしてピールを軽く曲げると硬貨サイズの果皮から霧状のものがタンブラーへと飛ばされた。
「ミナト?それは何なの!?」
湊の所作を見ていたシャーロットが驚きの声を上げる。
「リムの果皮にある油分を少しだけカクテルに入れたのさ。果汁を入れて甘くすることなくリムの香りを使うっていう方法だよ」
「そんなことが可能なのね……」
感心しているシャーロット。湊はタンブラーをそんなシャーロットの前へと置く。
「どうぞ。ジンソーダです。リムピールで香りを付けてみました」
「頂きます」
今度は躊躇なくタンブラーを口に運ぶ美しいエルフ。
「……ほんのりとリムの実の香りがする……。ありがとう、ミナト!これもすごく美味しいわ……」
嬉しそうにジンソーダを楽しむ美しいエルフ。それはそれはとても絵になる光景だった。
「カクテルはバーテンダーやお客の好みによっていろいろなバリエーションがある。ジンソーダ一つとっても多彩でね……。リムの実を入れるのか入れないのか……。入れるとしたら果肉ごとかピールのみか……。果肉を入れるとして皮を付けたままか、外すのか……。とかってね。当然、他の柑橘を使ったって構わない。炭酸水の分量も変えることが出来る。そう考えるとバリエーションは無限と言えるかも……」
「じゃあミナトはその様々なオーダーに対応してカクテルを作れるってこと?」
「おれも万能ではないけれどある程度はね…」
「やっぱりこれってミナトのスキルなの?」
これまでも何回か聞いたスキルという単語……。異世界ファンタジーではごく普通に使われる用語であるが、転生されたこの世界でスキルが一体どういう位置づけのものなのか分からない湊は首を傾げる。
「ごめん、シャーロット……。おれにはそのスキルってやつがよく分からなくて……」
湊にそう言われたシャーロットがはっとする。
「あ!そういえばミナトって自分のステータスを見てないわよね?」
「ステータス?」
登場した異世界ファンタジーの定番用語に目を白黒させる湊であった。
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