バイバイ愛しの女戦士達

多情仏心

第1話

「Twitterで知り合った人を友達と呼ぶなんて、終わってるよ」

醒めた目を向けて言う息子、よくぞここまで冷淡に育ってくれたよ、笑

君にはわからないかな?

リアルでもいいから、楽しく過ごして、過ぎた後でもまだ笑ってしまうそんな体験してそんな知り合いを持って欲しいよ!



 とてもドキドキしていた 長年の夢だったことが叶う。


 昔のゲーム仲間に会える日が来たよ、嬉しくて泣きそうになる。

 そのゲームはサービス終了で、もうどこにもないけれど、

 私達はTwitterでかろうじて繋がり、いつか会いたいね、なんて言ってて

 結構月日が経ったけど今日ついに叶うんだね!


「よう!猫、来たぜ」

 どんな靴を履いてきたのか?コツコツと床を響かせて近づく。

《主よ、人の望みの喜びを》 ジャック・ルーシェの演奏が負けている。

 男言葉だけど小柄でシャープな顔立ち あぁ、イメージ通りだね

 仲間の中で1番強いカリスマリーダー

 あなたはSOLちゃんだね?

「なんだよ、猫 笑うなよ」

 微笑むSOLちゃんの白い歯が見える 初対面でも緊張感がないのが不思議。

「入り口でことりに会ったんだけど、まずトイレって行っちゃってさ、もうすぐ来ると思う。お互いすぐわかったよ、面白いもんだね初めて会うのに」

 うん、やっぱりSOLちゃんもそう思う?


「猫ちゃん、ごめんね!今来たよ」

 小さなアルトの声が心地良い あなた、ことりなのに落ち着いた声なのね。

「やだな、笑わないでよ〜恥ずかしいな」

「いや、トイレ早かったなと思ってさ」

「SOLさんひどいよ、付き合ってくれなくて」

「あとは、ひとりもんだね」

「あ、ごめん!ひとりもん来れないんだ」


 ひとりもん…今日会えないんだ?残念!


 好きな漫画がアニメになってそれがゲームになった時

 RPGしかやったことがなかった私が初めて闘いの世界へ入った。

 好きなキャラクターになり、よく知る世界観の中で戦う

 そこで私が最初に出会ったのが、ひとりもんだった。


 あの頃はホームで盛んだった仲間募集のチャットをほぼ無視して

 無料ガチャでのんびりと好きなキャラクターを育てて

 地道にストーリーモードを進めて経験値稼ぎをしたけど

 デイリーミッションのひとつ、降臨している強敵を倒す、

 これはとても1人では倒せない。

 強さのレベルに初級・中級・上級・超級、と段階のレベルがあり

 倒してクリアすると報酬は上にいくほど良いものがもらえる。

 野良(フリー)で飛び入り参加して4人1組となって共闘する。

 人見知りで戦々恐々の中、やっと勝ててホーム戻っても恐怖は続く


 総合戦力6万の奴が中級に来るな!


 8万以下はゴミだろ!


 チャット欄での書き込みに震える

 初級を1人で倒せるようになった、そろそろ中級行っても大丈夫かな?

 参加して幸い他の人達が強くて闘い慣れていたので誰も死なずに終わったけどその中の誰かが役立たずの私に文句を言ってたようだ

 戦闘力6万、それは私のことだった…

 あとで知る、弱いやつが強者をアテにすることを『寄生』と言うらしい。


 もう少し、初級を周回して頑張るかな〜

 課金して強くなる人からすれば無課金の未熟者はクズだろうね。


 すっかり怯えていた私に声かけてくれたのが、ひとりもんだった

 野良でもホームでも、たまに見かけていた名前で性別不明の人

 同じようなレベルなのに、そこそこ強くて闘い慣れている

 Twitterでゲームのことを愚痴ツイートしたら

「前から見かけてました」

 フォローしてくれて、すぐ仲良くなった。

「私も6万以下のクズですけど?

 でもビー玉猫さんは寄生じゃなかったよ、闘ってました。

 寄生の人達って、始まってすぐ死んじゃって退場しないで報酬もらう人の事ですよ!」

 そう言って慰めてくれた、最初のうちは。

 ひとりもんは人妻なのにひとりもんという名前を付けている通り

 少し捻くれていて腹に一物タイプ、だけど天然という変わり者。

 DMでやり取りするうちに仲良くなればなるほど毒舌を吐いた

 でも不思議なことに、全然憎めないのはなぜだったのだろうね。


「ひとりもん、もらい事故で入院したんだ」

「マジ?…タイミング悪い奴な」

 いや、そういう問題じゃないよSOLちゃん

「猫ちゃんに会いたがっていたよ」

 いいよ、やめてよ、泣きそうになるよ〜

「3人だけでも、楽しくやろうぜ」

 いや、やめてよSOLちゃん!ここで1番年上なのに頭撫でられるの嫌!


 野良の怖さに懲りていた私は最初は3人だけで遊んでいた。

 ひとりもんとことりは元々親友で、私とことりが相互フォローになった後

 …そう、だいぶ経った後だっけ

「このゲームで自分からフォローしたのは猫ちゃんが初めてなんだよ、ひとりもんが、いい人だから大丈夫!そういうから安心してフォロー出来た」

 そう言われた時、私ね、なんだかわからないけど、一生付き合う人達だ

 …そう決めたんだ。リアルな友達よりもふたりの方が大切だと思ったんだ。

 人見知りな私達はどこか似ていて、気持ちが通じていると思い込んでしまった

 リアルではあったことはないのに、2人が親友ということがお互いを担保にして信用度も増していた気がする。

 ひとりもんは仕事をしているので誰よりも人見知りなことりは毎日私を誘う

 特に新しいキャラクターが降臨すると闘ってみたくて昼時もお構いなしだ

「ねぇ、やろうよー!降臨きてるよー!」

「やだ!今ご飯中」

「じゃ、待ってるよ!」「…あと何分?」

 ことりは、後々、そのゲームでランキング上位争いするほどの強者になり

 ホームに現れただけでいろんなグループから共闘の誘いを受けることになっても、やっぱり自分から誘えるタイプじゃなかったね、他の人には。


 話した方は何気ないから忘れてしまうだろうけど聞いた方は胸にいつまでも残っている 私はこういう些細なことを思い出にしてずっと覚えている。


 実力がない初心者3人にはゲームのミッションは困難だけど楽しかった。

 元々4人1組で協力し合い敵を倒すゲーム、それを3人でやっていた。

 初級の低いポイントでレベルを上げながら時間かけて中級をやっと倒していた。

 Twitterでのそのゲームのツイートは大体が強者達の自己満足アピールで

 超級をどのくらいのタイムでクリアしたとか、編み出した攻略を動画であげたりしていた、その中で私達は中級をクリア出来たとたっぷり喜んでキャッキャ言っているツイートをしていた。

 人見知りな私達はそんな調子でずっと3人でやっていて、いつか上級、そして超級へ行くことを夢見ていた。

 その私達のツイートに興味を持った強者がいて、それがSOLちゃんだった

 私達が初めて上級をクリアした時に、わざわざDMしてくれて仲間として

 入ってくれた時、私達はドキドキした。


 いきなり、超級へ行こうか、と?

「上級を3人でクリア出来たんだからもう超級行けると思ったんだよ」

 SOLちゃんは慣れていても、やっと上級行けるようになった私達には未知の世界、あんな恐ろしいところで勝てるなんて誰も思っていなかったよ。


「あの時は猫ちゃんもひとりもんもすごく嫌がっていたよね、怖いって言って」

 軽やかに笑うな、ことり!

「それでもひとりもんは残って頑張ったけどね、問題は猫だったな、逃げたからさ」

 …それは、敵より何よりSOLちゃんが〜

 SOLちゃんの鬼指導に耐えられなかった 暴言と暴言と暴言の嵐だったわ。

「でもみんなすぐ強くなったよ、猫以外」

 SOLちゃんの冷たい言葉にことりがお腹の底から大笑いして、すぐ黙って

「つい、家で話している気分だった」

 そういうと口に手を当てて笑った。

「グルチャでは毎日笑っていたね」

「そういえば猫は腹筋割れるからもう笑わせるな!って言ってたな〜どれ腹見せてみ、割れているのかチェックしたるわー!出せ腹を!」

 あ、やめて〜来るな触るな!

「アハハ、SOLさんやめてよ〜 ほら猫ちゃん困っているよ」

 …ホ、助かったよ、ことり。

 SOLちゃんの悪ふざけ、今も鬼級なのね。

 そう、そのSOLちゃんの鬼指導でみんな急に強くなっていったんだよね〜

 ゲームイベントやタイムアタックのランキングの上位に3人名前が入って

 ことりとひとりもんは1位2位を争う時もあって、名前がどんどん有名になって、野良やっていてもいつも誰かに誘われて超級の常連になってた。

 もう、あの頃みたいに怯える必要はどこにもない。

 超級ステージをただ覗きに行っては、BGMがすでに怖いとか

 床も壁も無意味に血色に点滅してるからビビって腹立つとか、もうそんなセリフ忘れるほど慣れ親しんだようだった。


 私は引目を感じてしばらくゲームを離れたりしていた。 

 でも

 デイリーもまともにやらない時期でもたまに覗くと夜ひとりもんがひとりで中級を周回しているのを見たり。

昼に他の人に誘われているのに断り、やっぱり中級を野良で回っていることりを見つける。

なんでひとりで今更中級を?聞いた時にことりは

「他の人とやっても緊張しちゃうんだ気を使うし、…楽しめなくて」

 そう言って私を恨めしそうに見た…気がしたんだ、笑。


 ゲームに夢中な時期でも、元々私はアクションは不得意だから

 好きなキャラクターになり、ホームをウロウロしているだけで満足出来ていたけれど、ことり達の遠回しなラブコールは響いた。

「猫と遊ぶのが楽しいんだよ」

 SOLちゃんの殺し文句に飛び付いたのは誰?アタシだよー!


 SOLちゃんの戦略は的確で私達は超級を秒殺するぐらいになってて

 それは3人が狂戦士で私は周りをチョロチョロして時々阻害して

 SOLちゃんの言う通りにペシペシ叩くだけであっという間に勝って、

 私は自分も強くなった気になってようやく楽しいと思うようになった。

 …でもその途端にゲーム運営からサービス終了の知らせを受けた時は

 今まで逃げ回っていた時間を悔やんだよ。

 そして、グルチャの『青春お仕置き部屋』で遊んだ日々も終わる?

 そう思うと更に悲しくなっていた。

 花嫁修行中のことりに、ひとりもんがニートと呼びランキングで負けたウサを晴らすことも、もうないのか、と。


「サ終の夜を覚えている?」

 SOLちゃんが私の目を真っ直ぐに見た。

 もちろん、覚えているよ。

「SOLさんはホームでみんなと騒いでいた時にもチャットで誘ってくれたね」

「けど、来なかったからさー」

 その日、ひとりもんはいつものように仕事でいなくて私はサボっていた試練の塔でずっと闘っていた…ゲーム自体がサ終で落ちるまで。

 試練の塔とは、まさしく試練で、ひとり孤独に闘い勝ち登っていかなければならない

 100階まである各ステージは漫画の世界観を存分に再現しているが、趣向を凝らしている分闘い方がとても難しい。

 SOLちゃんとことりは頂上までクリアしている。

 ひとりもんは仕事が忙しく、時間あればきっと全クリしていたはず。

 SOLちゃんが言った。

「1番上にはこの漫画を愛した人達への運営からのメッセージが込められているんだよ」

 …SOLちゃん、そういえば、あなたは昼は学校、夜はバイト、誰よりも時間がないのに、いつも先にクリアしていたね。

 さすがカリスマゲーマーだよ!

 打ち合わせしている時はSOLちゃんが孔明で、ことりとひとりもんが張飛と関羽に見えていた。

 3人共、ゴリラ並みの闘う戦士だったね。

 だから私のゲームには塔などないと言ってきたけど最後はお気に入りのキャラクターで闘いながらサ終を迎えて落ちたい、そう思った。

 今更、届くわけないけど、気持ちは戦士でいたいと思って。


 だから、あの日は、ことりはSOLちゃんと一緒だと思っていた。

 でも、塔の近くで私に寄り添ってくれていて、あとでことりのツイートを見ると塔の番人がサ終と共に消えて塔の入り口が無防備になった貴重な景色をスクープして翌日賑わっていたね、笑。

 でも自分が孤独に闘っていたと思っていた時…実は1人じゃなかったとわかって胸が詰まった。試練の塔の攻略を惜しみなく教えてくれて貴重な最後の時間を寄り添ってくれたことが

 …ねぇ、たかがゲームというけど、

 なかなかの感動で、そりゃ泣くでしょ!笑

「あの後グルチャで猫がことりに泣かすなよ!って騒いでいたのは、そういうことか〜」

 うん、そうだよSOLちゃん。

「猫ちゃんは感情激しかったよね〜」

「猫には振り回されたよ」

「打ち合わせして集合して戦闘準備して、さぁ、行くぞ!頑張るぞー!って言うとさ猫ちゃんが言うんだよ、みんな頑張れ〜って、3人揃ってツッコミしたよね、おまえが1番頑張るんだよ!って」

「よく打ち合わせ中は暇だと言ってご飯食べてた、夜中なのに、笑」

「ひとりもんが最後に猫はエサ食っとけ、と暴言サラッと吐いてたな、あの頃」


 あぁ、そうだ!ひとりもんにはこっちから会いに行くよ、どうせ私はみんなと違って暇だからねー、笑。

「さて、猫よ!あたし達はもう帰るわ」

「うん、そろそろ時間だね。楽しかったよ」

「覚えていた?猫が別れる時ほど楽しくやる、どうせ後でいくらでも泣く時間はあるから一緒にいる間だけは楽しくないと、って」

「ゲームのサ終ではひとりで泣いてたけど」

「それはことりが泣かせたんだろが、笑」

「ひとりもんは、サ終もいなかったけど、なんだかそういう宿命なのかな?わたしはどう説明していいか、今更悩んでいるよ」

「今日のこと、後で思い出す時どう考えるか全然整理つかないと思うよ、猫、なかなかやるな」

「でも嬉しいな、遺言に名指しで呼んでもらえるなんて。初めてだから」

「まさか猫との初対面が…」

 泣かないで、SOLちゃん、ここは我慢だ!

「SOLさん猫ちゃんとの約束だよ!」

「ことり、鼻水出てるから、拭け」


「猫ちゃん穏やかな顔して寝ているよ」

「色白だな、当たり前か、血の気ないんだ」

「SOLさん、そのイジリは良くないです」

「固いこと言うなよ、猫はこの方が喜ぶんだ」

「ひとりもんの毒舌にも嬉しそうだったよね」

「猫の顔、忘れないよ、実年齢知ってビックリしたけど、面影はイメージ通りだった」

「猫ちゃんは魔女だったのかな」

「あたし達は出会えて良かったよ、一緒に闘えたことが楽しかった。猫はやりたくない時、私は弱いから他の人誘ってやりなよ、ってよく困らせたけどあたし達は猫と遊びたいから集まったんだ、そう言うと大人しく遊んでくれたよね、そういう子供みたいな所、好きだったよ!」

「猫ちゃん、ヴァルハラで待ってて」

「そうだね猫、ヴァルハラでまた会おう!」


 SOLちゃん、

 ことり、ひとりもん、会えて嬉しかった

 ヴァルハラで待っているよ!

【完】














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