結論

「何の罪になりますか、俺」

「自殺幇助……いや……」

 ひと息に語り終えたホストクラブ瑪瑙の元ホスト、市岡稟市の実弟ヒサシの友人、亡くなった白野憂宇子の配偶者である寿朗のデザイン事務所の関係会社で働く宮原亜純みやはらあずみを相澤鳴海は困惑した様子で見詰める。白野憂宇子の葬儀の翌々日、市岡稟市と相澤鳴海は揃って宮原亜純に呼び出された。珍しくふたりともに時間がある日だったので、事務所にほど近い喫茶店で顔を合わせたのだが。

 あの日の慟哭青年の告白に、一介の弁護士にできることなど限られている。

「えーと……でもね、警察が捜査して自殺やっていう結論になったんよね。それやと、仮にきみが自首しても、うーん……」

 腕組みをして唸る相澤に、

「意味なしって感じですか?」

「再捜査に……いやでも火葬も終わってしもたし……」

「じゃあ」

 と、宮原はかたちの良いくちびるにふにゃりと笑みを浮かべて言った。

「俺、今から寿朗さんのとこに行きます」

「ああ?」

 思わず大声を出したのは市岡だ。しかし宮原は動じない。

「憂宇子ちゃんに頼まれたことが幾つかあるんですけど、寿朗さんの仕事を手伝ってほしいって言われてるんですよね。俺、また転職します」

「お、おい」

「弁護士さんに確認して罪に問われるなら遠慮しようと思ってたんですけど、だいじょぶそうなんで、俺行きます。寿朗さん優しい人だから絶対苦しんでる、早い方がいいですよね」

 話聞いてくれてありがとうございました、相澤さんにはまたお会いするかもですね、それじゃまた、あっヒサシによろしくです、と言い残して宮原は去って行った。テーブルの上の伝票は宮原ととともに消えた。

「……どうなの、除霊弁護士」

 冷めたコーヒーを口に運びながら相澤が唸った。市岡は宮原の告白の最中火を点けるタイミングがなかった煙草をようやく咥えながら、

「葬式の日」

「あー? なんか言うてたね、そういえば。なんか見たん」

「……なにも」

「え?」

 煙を吸って、ため息と同時に吐く。滅多に起きない事態が起きている。

「自死とか、ああやって誰かに……終わらされたりした人の葬儀では、たいてい何かが見えるんだけど」

「うん」

「なにも見えなかった。坊主の頭の上をずっと見てたけど、なんにも、なかった」

 同じ県の同じ村の出身である相澤は、少年時代から今に至るまでのあいだに市岡が関係した「その手」の事件のほとんどを知っている。だから一緒に仕事をしている向きもある。

「なんやそれ……」

「分からん」

「未練なしってこと? 恨みも?」

「両方ないんだろ。だからもうとっくに現世にいない。四十九日とかも憂宇子さんには関係ない、関係ないって気持ちで死んでった」

「寿朗さんのことは……えっ、もしかして」

「宮原の証言がマジなら惚れ合って結婚した相手なんだろ。その男のことを、自分に惚れ切った男がこの先面倒見てくれるっていうなら」

 まだ半分も吸っていない紙巻煙草をスチール製の灰皿に押し込んで、市岡は言った。

「これはハッピーエンドなんだ。俺の出る幕はない」

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