第98話




 来客を迎えることは珍しいことではないが、何故自分に会いに? と、アシュフォードは首を捻りつつ客の待つ部屋に向かっていた。

 これまでは城を訪ねてくる教会や魔法協会の関係者は国王か王太子であるガルヴィードに謁見を申し入れてきたはずで、第二王子であるアシュフォードは特に彼らとは懇意にしていない。近々魔法協会を訪ねるつもりではあったが、教会には特に用はない。

 いったい、教会がアシュフォードに何の用があるというのだろう。まったく心当たりはないものの、王族の一員として、丁重に迎えなければなるまい。

 少しの緊張を顔に浮かべながら、アシュフォードは足を急がせた。

「お待たせしました」

 王宮の中に来客を迎えるための部屋はいくつかあるが、その中でも最も小さい部屋で客人は待っていた。非公式の面会であるため、出来るだけ簡素にと向こうから望まれたためだが、やはりもう少しいい部屋で迎えるべきだったのでは、とソファの横に立つ清廉な姿を目にしてアシュフォードは思った。

「突然の申し出にも関わらず、お時間をいただきありがとうございます。アシュフォード王子殿下」

「いえ、こちらこそ。高名な貴女にお目にかかれて光栄です。シスターコゼット」

 二十歳の若さで大聖堂に迎えられた敬虔な修道女コゼットの噂はアシュフォードの耳にも届いていた。実際に会ったのは初めてだが、清廉で儚げでありながらも、一本筋の通った力強さを感じさせる立ち姿に、アシュフォードは少し圧倒されかけた。彼女の横には、何故か魔法協会の職員の格好をした若い男が立っている。

「しかし、なぜ私に会いに?国王陛下もしくは王太子殿下へ取り継いだ方がよろしければそう致しますが……」

 アシュフォードはまだ成人前の十三歳だ。本格的な公務も始まっていないため、高名な修道女に何かを望まれても応える術がない。

 しかし、シスターコゼットは慈しむような瞳でにっこりと微笑んだ。

「貴方様でなければいけないのです。アシュフォード王子殿下」



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英雄王アルフリードの誕生、前。~「なるべく早めに産んでくれ」~ 荒瀬ヤヒロ @arase55y85

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