第97話
「そして、ここからが俺達も知っているおとぎ話の内容になる。黒い魔法使いは悪しき心を持ち、白い魔法使いと戦う。白い魔法使いは黒い魔法使いを倒すが、自身も命を落とす。死の間際、自分は白い石に姿を変え人々を見守る。この石を正しき者に与えろ。と言い残して白い巨石に姿を変える」
「サフォアの魔石だな」
ガルヴィードが本から目を離してソファに沈み込んだ。
もしもゴドランディアの教典の中に白い魔法使いと黒い魔法使いの話があるとしたら、サフォアはそれを採用してヴィンドソーンは採用しなかったということだ。
「まあ、サフォアの建国神話なら魔石のことに触れない訳にはいかんだろうからな」
ルートヴィッヒも頷く。
「ざっと他の国の建国神話も読んだがな。白い魔法使いと黒い魔法使いが出てくるのは、サフォアとドモンドの他は、レコスだけだった」
「レコス?」
ガルヴィードとルティアが目を丸くした。
「魔力を持たない民の国の神話に、魔法使いの話が出てくるのか?」
「おう。でも、あまり詳しく書かれていないんだ。レコスについての書物も少ない。まあ、エリシアラ様が嫁ぐまで、ほとんど関わりのなかった国だからな」
ガルヴィードの母、ジュリアラの姉エリシアラ・クレードルはレコス王家の第二王子に嫁いでいる。
だが、ルートヴィッヒの言う通り、それ以前は絹を買うための最低限の交流があるぐらいで、レコスに関する情報は少なかった。いまだに、魔力も持たない蛮族の国などと見下す輩も多い。
「レコスの建国神話は……ああ、ここだ。『大陸にまだ国のない時代、レクタル族とヴィンドソーン族は互いを滅ぼそうと戦った。それ故、神の怒りに触れ、双方の一族から一人、子を生け贄に捧げることになる。選ばれし子どもの名は……ユロクト・レクタル』」
ルートヴィッヒが読み上げた。
その瞬間、ガルヴィードの頭の奥が、キィ……ンと何かを突き通されたように痛んだ。
「っあ……っ?」
「ガルヴィード!?」
痛みに顔を歪めて頭を押さえたガルヴィードを、ルティアが横から支えた。
「大丈夫?」
「痛……あ、頭が、割れそうだ……っ」
激痛に顔を歪め、ガルヴィードは呻いた。ルティアの心配する声も、ルートヴィッヒの医者を呼ぶ声もかき消すぐらい、ズキンズキンと響く痛みが激しい。
頭の中で、誰かが暴れているようだ。
腹の底から何かがせり上がってきて、ガルヴィードの胸から頭まで飲み込もうとするかのようだ。
「ふっ……ぐ……」
ガルヴィードは遠のきそうになる意識を必死で引き戻した。
飲まれる。
これに飲まれたら、自分はおしまいだ。そう直感した。
耐えろ。耐えろ。耐えろ。
「ガルヴィードっ!!」
ルティアがガルヴィードの頭を抱いて胸に包み込んだ。
そのぬくもりを感じて、頭の痛みが僅かに和らいだ。
「ルティア……」
腕を伸ばして小さな体を抱きしめた。ルティアの鼓動の音が聞こえて、それを聞いているうちに痛みは引いていった。ガルヴィードを飲み込もうとしていた「何か」が、力を失っていく。
——お前にこの体は渡さない。今度こそは。
ルティアを抱きしめたまま、ガルヴィードは自分の中の何者かに向かって告げた。
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