第95話
部屋の外からこっそりと中を伺うと、ガルヴィードが一人でソファに腰掛けているのが見えた。
「ルティア?」
あっさりとみつかって、ルティアはびくびくと身を震わせた。
「何やってんだ?」
「……みんなは?」
「あん?フリックとエルンストは魔法教会に行った。ルートヴィッヒは図書館で調べ物だ」
ガルヴィードは涼しい顔で言った後で眉をひそめて「なんで入らないんだ?」と尋ねた。
(なんでそんなに普通にしてるのよ!?)
ガルヴィードがあまりにも平然としているので、ルティアは顔を赤くして憤った。昨日家に帰ってからも、今日ここに来る間での間も、ルティアはガルヴィードに言われたことを思い出しては大いに狼狽えていたというのに。
それなのに、ガルヴィードの態度があっけらかんとしすぎていて、ルティアは昨日の台詞は聞き間違いだったんじゃないかと思い始めてきた。
(聞き間違い……そうだよね。ガルヴィードが恋なんて……恋……なんて)
ルティアは平静を装いつつ近寄っていき、ガルヴィードの隣にすとん、と腰を下ろした。ただし、いつもより座る位置が拳三つ分くらい離れていたが。
「……何読んでたの?」
「ああ。教会からの訴えだ。あの夢以降、国民の信仰の薄れが深刻なんだとよ」
ガルヴィードは手にした書類の束を軽く振って見せた。
「信仰の大切さを説くために大聖堂で大陸神への祈りの儀式を執り行うから、王族に出席してほしいっていう内容だ。特に英雄の父である俺には絶対に出てほしいんだろう」
「ふぅん……もしかして、私にも出席してほしいって手紙来るかな?」
「いや。俺宛の訴状に一緒に書いてあるぞ。「王太子妃となるギーゼル伯家のご令嬢と共にご参加願います」だと」
「……」
完全に王太子妃扱いされているのを知って、ルティアは赤面して押し黙った。
「面倒くさいが、教会・魔法協会との繋がりは深くしておきたい」
「そうね……」
これから先、協力を仰ぐこともあるだろう。仲良くしておくに越したことはない。
「教会だけじゃなく、魔法協会にも一度顔を出しておくか。それから……」
ガルヴィードは書類を睨みながらぶつぶつ呟く。ルティアはその端正な横顔をぼーっと眺めた。
ちなみに、戸口には侍女が待機しているし、扉は開かれている。ガルヴィードが同じ過ちを犯さないよう、ルティアと会う時は側近の同席もしくは侍女を立たせることと言いつけられているのだ。
「大魔法使いにも意見を聞きたいが、大魔法使いに面会を申し込むには国王の許可がいるんだよな……父上には、いつ打ち明けるか……」
ガルヴィードが書類に夢中なので、ルティアはちょっともやもやした。横顔をじーっとみつめているのに、ちっともこっちを向かない。ルティアはむぅ、と頬を膨らませた。
頬を膨らませながらも熱心にみつめる瞳はきらきらと輝いて愛しみが溢れていて、侍女の目にはそこだけ空気に可愛いお花が咲きそうな雰囲気に見えた。
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