第89話 聖典と偽書
「しかし、わからんなぁ」
無事、二人の世界から帰還したルティアとガルヴィードの前で、フリックがぼやいた。
「なにがだ?」
「ガルヴィードは国王陛下を弑し奉っている夢をみたんだろ?そもそもその夢をみせたのは誰なんだ?あの三日間の夢にしても、誰が、どうやって、国民全員に夢をみせたんだよ」
フリックの疑問は誰もが薄々抱いている疑問だった。三日間の夢に関しては、アルフリードが警告と早く産んでほしいという望みを伝えるためにみせたのであろうが、いったいどうやって国中の、しかも過去の人間に同じ夢をみせるだなんて芸当が出来たのだろう。それに、ルティアやガルヴィードがみた未来の夢も三日間の夢と同じくアルフリードからの警告だったのだろうか。
「夢については、そういうことが可能か魔法協会に調べてもらうしかないな」
「そうだな」
頷きながらエルンストが今日話し合った内容を帳面にすらすら書き付けていく。一度耳にしたことを簡潔に書き表していくのは彼の特技だ。
「それと、一応黒い魔法使いのことも調べたいな。もっと詳しい伝説を知っている奴はいないかな?」
皆で頭を捻る。ルティアはあることに思い至って「あっ」と声を上げた。
「もしかして、これって神話の一部なんじゃない?ゴドランディアの教典に出てくるかも!」
大陸神ゴドランディアは大陸の国々が共通して崇めている神だ。ルティア達も貴族の嗜みとして教典は読み通している。ただ、彼らが読んだのは正史とされる「聖典」のみだ。
ゴドランディアの教典は膨大な数があり、どれを「聖典」としてどれを「偽書」とするかは国によって違う。
「なるほど。大陸の国々に似たような話が伝わっているのだから、出典が教典の一つという可能性はあるな」
ヴィンドソーンでは正史とされていない「偽書」の中におとぎ話の元となる話が入っていて、その話を「正史」としている他国からただのおとぎ話として伝わってきた、という可能性はなくはない。
「でも、「偽書」だとするとうちの国の図書館にはないかもな」
「それなら、魔法協会の知り合いに聞いてみる。ドモンド出身で、魔法史研究に身を捧げている奴なんだが、とにかくありとあらゆる書物に目を通している読書狂だ」
フリックが少し嫌そうな表情で前髪を掻き上げた。
「とにかく、今はまだガルヴィードと「魔王」の件は俺達以外の誰にも知られないようにしよう。何もわかっていないのに下手なことを言って、国民を不安にさせるわけにはいかない」
ルートヴィッヒの言葉に全員が頷いた。
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