第83話 仲間達
「精神的に百叩きにされた気分だ」
ガルヴィードが楽しそうにそう言うので、側近達は笑い飛ばした。
「自業自得だろ」
「ロシュアからしたら殴り足りないだろうさ。俺も加勢してやればよかった」
「今後、ルティア嬢に何かしたらまた手袋叩きつけられるぞ。肝に銘じておけ」
「……そうだな」
ガルヴィードは窓枠に寄りかかって外を眺めた。
まさか、ロシュア・ビークベルに決闘を申し込まれるだなんて、想像も出来なかった。
「厄介な相手だった」
一個師団相手にする方が楽かもしれない。
ガルヴィードがそう愚痴ると、三人はげらげら笑った。そして、エルンストがふと呟いた。
「にしても、あの場にいた令嬢達が全員ロシュアに惚れてたけど、サフォアの王女が結婚申し込んできたらどうする?」
「ロシュアに?妹がヴィンドソーンの王太子妃で兄がサフォアの王女婿になったらビークベル家強すぎるだろ」
確かに、そんなことになったらビークベル家の権勢が凄まじいことになる。
「サフォアの王女は惚れっぽいだけだから大丈夫だろうけど……」
「どっちかっていうとハルベリー嬢の方が有力だな。モガレア家とビークベル家が縁を結んだ場合の影響について親父に聞いておこう」
フリックがやけに真面目な声でそう言うので、ガルヴィードもついモガレア侯爵の顔を思い浮かべてしまった。確かハルベリーには弟がいたはずなのでビークベル家の嫡男に嫁ぐとしても問題はないはずだ。
ハルベリーはルティアとも仲が良いので、両家ともに理想的な縁談だろう。
外野から勝手にそんな計算をして深く頷く。
それから、ルティアを泣かせたままにしていることを思い、自嘲の息を吐いた。
「……明日、ビークベル家に行く。朝議が終わったらすぐに」
「ああ、陛下から伝言。明日の朝議はお前は立ち入り禁止だってよ。決闘で城の平和を乱した罰で」
ルートヴィッヒがびしっと指を突きつけて言うので、ガルヴィードは眉を曇らせた。
「なんでお前がそんな伝言を……」
「ガルヴィードが朝一番にルティア嬢の元に行くなら良し。朝議に出てからなんて寝言を言うならこう伝えろ。ルティア嬢の元に行くともなんとも言わなかったら伝えずに、朝議にのこのこ出てきたところを笑い物にしてやろう。という陛下のお心遣いからだ」
「……間違いなく俺に対するお心遣いじゃねぇな」
目頭を抑えながら、しょうがないなと思う。今、この城の中で一番人権が無いのは自分だ。
目の前の側近達の様子を伺う。
もしも、彼らがガルヴィードを見放していたら、自分は立ち直れなかっただろう。ルティアに会いに行こうと思う勇気も持てなかったはずだ。
それに、あの時、扉を開けてガルヴィードを止めてくれたのは、彼らが王太子という肩書きよりもガルヴィード自身を尊重してくれたおかげだ。
あの悪夢が、本当に未来に起こることなのだとしたら、それを覆すためには、彼らの協力が必要不可欠だ。ガルヴィード一人では、何も出来ない。身に沁みて、それがわかった。
だから、どうしてあんな真似をしたのかを、きちんと話さなくてはならない。
目を閉じると瞼の裏に蘇る。倒れた父と、切りかかってくる弟。それを嘲笑を浮かべて迎える自分ではない「自分」の姿。
ガルヴィードはゆっくり深呼吸をした。
それから、意を決して口を開いた。
「なぁ」
談笑をしていた三人が声を止めて、ガルヴィードに視線を寄越した。
三人の視線にしっかりと目を合わせて、ガルヴィードは言った。
「俺が——俺の中にいる「何か」が、魔王なのかもしれない」
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