第82話 お兄様の帰宅
ルティアは愕然としてその場に立ち尽くした。
「に……兄様……」
帰宅した兄が、ぼろぼろになっていた。
侍女達が悲鳴を上げ、ロシュアはばつが悪そうな顔をした。
「いや……怪我はしていないから。擦り傷ぐらいで……」
言い訳がましくそう言うが、子どもの頃から穏やかで聡明だった兄がこんな風に服を破いて帰宅したことなどこれまでに一度もない。初めての事態に使用人達の恐慌ぶりといったらなかった。
手当だ風呂だ着替えだと連れて行かれてしまったロシュアを見送って、ルティアは肩を落とした。
(私のために……)
ロシュアがガルヴィードに決闘を申し入れたと使用人から聞かされて、ルティアは飛び上がるほど驚いた。王太子相手にまさか本気で決闘なんてしないだろうし、でも一応は城まで止めに行くべきかと悩んでいるうちにぼろぼろになった兄が帰ってきてしまったのだ。
子供の頃から大人しく、喧嘩などしたことがないロシュアでは、ガルヴィードの相手にならないことなどわかりきっていただろうに。
ルティアは目を潤ませて、それから、決意して顔を上げた。
(明日は城に行こう!ガルヴィードに会いに!)
きっと、今頃はロシュアに挑まれた衝撃と、彼をぼろぼろにしてしまった自己嫌悪で落ち込んでいるだろう。ガルヴィードが落ち込んでいるのなら自分が傍にいなくては、とルティアは気合いを入れる。
(そして、何があったのかをちゃんと聞くんだ!)
きっと今、一人で苦しんでいるに違いないガルヴィードを、放っておくことは出来ないとルティアは思った。
そんな風に心を決めたルティアだったが、その時にわかに家の外が騒がしくなった。
「お、お嬢様!」
「なに?なんの騒ぎ?」
「そ、それが、侯爵家や公爵家からの使いや伯爵家や子爵家からの縁談の申し込みがっ!」
「はあ!?」
その日のビークベル家は日が暮れるまでひっきりなしにやってくる貴族の馬車に囲まれて、家人も使用人達も対応に追われててんやわんやだった。
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