第77話 ヘリメナの憤慨
「どういうことですの!?」
事前に訪問の調整をしていたというのに、「国王陛下はただいま戻って参りますので、少々お待ちください!」と案内役の近衛騎士に頭を下げられて、ヘリメナは憤慨した。
そっちが呼んだ癖に、謁見の間に待機していないなど許せるわけがない。問いつめて白状させれば、国王は決闘の見物に出ているというではないか。
「どこの馬鹿が決闘なんて野蛮な真似しているか知りませんけど、そんなことで私を蔑ろにするだなんて許せませんわ!!」
いかにヴィンドソーンといえど、サフォアの王女に対するこの無礼は目に余る。
ヘリメナが激怒するのも無理からぬことだった。怒りが爆発したヘリメナは近衛騎士を叱りつけて、国王の元へと案内させた。
そういえば、馬車を降りた時に庭の向こうがやけに騒がしいような気がした。先導の馬車に乗っていたらしい少女がそちらへ駆けていく後ろ姿も見えた。
決闘なんて実に古くさい。あんな野蛮な風習がヴィンドソーンの貴族に未だに息づいているとは知らなかったが、だとしたら大国ヴィンドソーンはある面ではサフォアやドモンドより遅れているということだ。サフォアでもドモンドでも、もう二十年以上前に決闘禁止令が出されている。
ヘリメナはそう考えて胸を張るが、サフォアやドモンドで禁止令が出されてヴィンドソーンでは未だに禁止令が出されていないのは、単純にサフォアやドモンドと比べてヴィンドソーンの決闘数が少なかったからだ。サフォアやドモンドでは年間100を越す決闘があり、くだらない理由で貴族が数を減らすのを止めるために禁止令が出された。
そしてヴィンドソーンで決闘が少なかったのは、魔力値の高い人間が多いせいだ。家を継がない貴族の次男や三男の多くは魔法協会に入る。貴族籍ではあっても魔法使いの称号を得た者は決闘の権利を失うため、ぶらぶら暇を持て余している血の気の多い貴族の若者は親によって魔法協会に放り込まれてしまうのである。
もちろん、彼ら全部が魔法使いになるわけではなく、たいていはある程度の魔法の知識を得た後で魔法協会を出て、その周辺の研究施設や店などで働くことになる。
だが、そんな事情を知らないヘリメナは未だに決闘なんて野蛮な真似をしているヴィンドソーン王国を愚かだと決めつけた。
彼女はずっと大国ヴィンドソーンに憧れ、嫁ぐならヴィンドソーンがいいと決めていたのだが、その気持ちがふっと薄れた。野蛮な人間は嫌いなのだ。
そんなヘリメナの目に、円形の舞台を取り囲む人々と、その中心で組み合う男達の姿が映った。
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