第71話 くい違い
王太子の暴挙については、被害者である伯爵令嬢から「罰を与えないでほしい」という申し立てがあったため、三日間の謹慎と令嬢への謝罪のみで済まされることになった。
もちろん、国王と王妃からは伯爵家へ正式な謝罪と過分な贈り物が届けられ、令嬢には伯爵を通して何でも望みのものを取らすと伝えられている。
城で何があったかは、使用人達に厳重に口止めがなされたらしく、貴族達の間では広まっていない。ただ、連日城を訪れていたルティアの登城が止まったことで、王太子と何かがあったと勘ぐる人々は多かった。
ルティアはぼんやりと窓の外を眺めた。今日はしとしとと雨が降っている。
(ガルヴィードは何してるかなぁ……)
窓辺に置いた椅子に座り、ルティアは背もたれに頭を預けた。
あんな目に遭ったけれど、ルティアのガルヴィードに対する気持ちは何も変わっていなかった。あの時はガルヴィードがいつものガルヴィードじゃないみたいで怖かった。でも、ガルヴィードはあの時ルティア以上に追いつめられた表情をしていた。
その前に部屋に引き籠もっていたこともあるし、彼には何かそうせざるを得ない理由があったに違いない。
(何があったんだろう……)
「……ルティア様」
控えめな声に呼ばれて、ルティアはふと顔を上げた。
椅子から少し離れたところに、ルティア付きの侍女とメイドが立ち並んでいた。
「ルティア様っ……申し訳ありません」
一番前にいた侍女が、倒れ込むように跪いた。
「私どもは、ルティア様のお気持ちを考えずに軽々しく「子どもを産め」などと……」
「いきなり英雄の母などと言われたルティア様の不安も考えずに……申し訳ありません」
口々に謝られて、ルティアは面食らった。
「……謝らなくていいのよ。私だって、自分以外の誰かだったら同じことをしたわ」
「ですが……っ」
「それに……私はそこまで傷ついている訳じゃないのよ」
ルティアは静かに言って、再び窓に目を向けた。
「嘘です!ルティア様はこの三日間、ずっとぼんやりしておられます!」
「ああ、それは考え事をしていただけ。城に行かないのは……まだ考えがまとまらないからなのよ」
ルティアはふっと微笑みを浮かべた。
考えるのは、ガルヴィードのことだけだ。あの時のガルヴィードは我を失っていて、ガルヴィードがそんな風になる原因なんてルティアには一つしか浮かばなかった。
ガルヴィードの中にいる、「何か」。
(あいつが何かしたに違いない……っ)
ルティアはむぅっと口を尖らせた。
この三日間、考え抜いてルティアは一つの結論に達した。
最早、一刻の猶予もならない。
あのお邪魔虫を、消す。どんな手を使っても。
あのガルヴィードの中の「何か」さえいなければ、ルティアはガルヴィードを見る度に嫌悪感など抱かずにすむし、結婚も出来るし、英雄も産める。
くっついて嫌がらせをするとか悠長な真似をしている場合ではない。確実にガルヴィードの中から追い出す方法を考えなければ。
(魔法使いに頼んで、ガルヴィードの中から出て行かないと拷問するって脅してもらうとか、教会に連れて行って三日三晩不眠不休で祈らせるとか……)
周囲の者は静かに考え込むルティアの姿に「ショックのあまり心を閉ざしておられるのだ」と思い胸を痛めていたのだが、実際にはルティアはなかなか物騒な計画を脳内で立てていたのだった。
そんなことは知らない侍女達はいつも元気なお嬢様の打ちひしがれた姿に涙を流し、妹のその姿を目にした兄も当然ながら心中穏やかでは居られなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます