第42話 作戦始動




 たかが四つ葉のクローバーを上手く見つけられるくらいで、王太子より自分の方が強いなどと、とんでもない思い上がりだ。不敬でもある。

 あの時のことを思い出したガルヴィードはふっと微笑んだ。

 あれが、長年に渡って繰り広げられる勝負の始まりだった。

 ルティアはガルヴィードの中にある「ガルヴィードを苦しめる何か」を心底嫌ってくれている。ガルヴィードを見る度にその「何か」を感じて嫌悪を浮かべる。ガルヴィードの中にいる「何か」はルティアを嫌い、ルティアを見る度にガルヴィードの中で不快感を暴れさせる。

 この「何か」がある限り、ルティアとガルヴィードが結ばれることはない。嫌なのだ。二人の間に「何か」が混じるのは。

 ガルヴィードは自分の腹にしがみつくルティアの頭を撫でた。喚き疲れてぐったりしてしまった少女はうとうととしているようだ。

 今のままでは、結婚など出来ない。

 結婚するためには……

「っ、「何か」を倒せばいいんだ!」

 突如、ルティアが叫んでがばあっと起き上がった。勢い余ってガルヴィードの顎に頭がぶつかった。

「ぐっ……!」

「あ」

 顎を押さえて呻くガルヴィードを見上げて、ルティアは自分の頭を撫でた。

「でめぇ……っ」

「あのね!「何か」をガルヴィードの中から追い出せばいいんだよ!」

 涙目で睨みつけてくるガルヴィードの手を取って、ルティアは懸命に訴えた。

「追い出してやっつけよう!」

「……どうやって?」

 顎をさすりつつ尋ねると、ルティアはさもいいことを考えたとでも言いたげに胸を反らした。

「ガルヴィードの中がすっごく居心地が悪くなれば、「何か」は逃げ出すんじゃないかな?だから、ガルヴィードの中を居心地悪い場所にすればいいのよ!」

「どうやって?」

「私!」

 ルティアはびしっと自分を指さした。

「私は「何か」に嫌われてるでしょ!だから、私が常にガルヴィードにくっついていれば、「何か」にとってはすっごく嫌で居心地が悪いはず!」

 ガルヴィードは目を瞬いた。

「おお、そうか」

「そうだよ!」

「しかし、どれぐらいくっつけば「何か」が逃げ出してくれるか……」

「逃げ出すまでくっつこう!大丈夫だよ!」

 ルティアは再びガルヴィードの腹に手を回した。

「私は一緒に戦うから!」

 ガルヴィードはルティアのつむじを眺めて口を噤んだ。

 勝負を繰り返してきた宿敵は、戦友でもある。その宿敵で戦友が「一緒に戦う」と言うのだ。幼い頃と違って、今のガルヴィードはもう「お前に何が出来る」なんて聞いたりしない。

 なんでも出来る。こいつと一緒ならなんでも出来る。

「よし!じゃあ、くっつくぞ!」

「おう!」

 こうして、ガルヴィードの中から「何か」を追い出すための「ルティアがくっつく嫌がらせ作戦」は始動した。

 ちなみに、後にこの作戦のことをやる気満々のガルヴィードから聞かされたルートヴィッヒは壮絶に嫌そうな顔で「側近辞めたい……っ!」と呻いたのだった。



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