第33話 白い石
自分に魔法使いの才能があるなんて、考えたこともなかった。
魔法使いになりたいのか、と訊かれると、今でも首を傾げるしかできない。
けれど、自分にはどうやら選択肢は与えられないらしい。
「ふぅ……」
魔法協会の中に与えられた一室で、ユーリは一人きりで溜め息を吐いた。
この国には行商に来ただけだったのに、なんでこんなことになったのだろう。突然「キミにはすごい魔力がある」なんて言われて魔法協会に連れてこられて、あれよあれよという間にユーリはここで学ぶことに決まってしまっていた。
「大きすぎる力を持っているので野放しにすると危険だから」らしいが、けれどこれまで生きてきてユーリは魔法なんて使ったことも意識したこともないし、別に学ばなくても今まで通りに生きていけるはずだ。
父は「嫌になったらすぐに帰ってきていい」と言ってくれたけれど、周りの大人達を見るにどうもそう簡単に帰してくれそうにない雰囲気だ。
ユーリは昼間の出来事を思い返した。
今日は魔法を使う際に必須の杖の使い方を教えてもら——うはずだった。杖を振ることによって、全身の魔力を杖に集中させ具現化の助けとするらしいが、ユーリにはよくわからない。教えられた通りに杖を振るや、杖が破裂したからだ。
軽く振っただけで粉々になった杖を見て、ユーリの教育係だというビクトルは青ざめていた。ユーリも青ざめた。杖って高いんじゃないの?と心配になったからだ。
しかし、弁償しろと言われることもなく、その後も杖を破壊し続けて、十本の杖を粉にしたところで「キミに合った杖を作らなくちゃいけないね」とひきつった笑顔で言われた。
一緒に杖を振っていた白銀の髪の美少女は「すごいですのね!」と目をきらきらさせていたが、商人の息子としては粉と化した杖を見て「もったいない」としか思えなかった。
すごい魔力がある、と言われたが、まだ何も目に見える形で魔法を使えていない。そのことがユーリは不満だった。
最初に魔力を使った時も、他の人の魔力は丸い形になっていたのに、ユーリは辺り一面白く輝かせただけだ。ちゃんと丸い形にしたい、自分も。
ユーリは両手のひらを合わせて集中してみた。
(丸い形丸い形……)
あの時、怒鳴り込んできた男に「魔力を垂れ流すな」と叱られた。ならば、垂れ流さないように気を付ければいい。手のひらで囲んだ範囲から、魔力がはみ出さないように、魔力がぎゅううと真ん中に詰まる感じで、目を閉じてイメージをしていく。
(丸い形……)
ん~、と唸り、集中する。
すると、手のひらがかーっと熱くなった。
「エル・カロ」
小声で呟いてみた。
目を開くと、手のひらの中心が白く輝いている。
「お」
白い光がぎゅっと凝縮して丸い形になり、一瞬強く輝いたと思った次の瞬間、手のひらから丸いものがこぼれ落ちてからん、と床に転がった。
慌てて拾い上げると、ぶどう一粒ぐらいの大きさの乳白色の丸い石が出来ていた。
「え?これ、僕が作ったの?」
思わずきょろきょろ辺りを見回すが、当然他に人はいないし、こんな丸い石が転がってくるような理由は他にない。
「魔力で石って作れるの?」
他の人も魔力で丸い形を作っていたけれど、あれはすぐに消えていた。
「なんかの役に立つのかな?これ……」
自分で作っておきながらなんだが、使い道がわからない。
今度誰かに訊いてみようと思い、とりあえずポケットに入れた。
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