第32話 ルティアの危機
「おわっ?」
不意を突かれて驚いたガルヴィードが、ルティアを見て目を丸くする。
「何してんだ、お前?」
「ただの散歩よ。それより、……随分楽しそうだったわね」
「はあ?冗談じゃねぇ。社交だと思って我慢してるだけだ」
ガルヴィードは心外そうに眉をひそめたが、ルティアは「へーほーふーん」とジト目で彼を睨む。
ルティアが不機嫌なのに気づいたのか、ガルヴィードが椅子に座ったままルティアの方に体を向けた。
「どうした?」
ルティアの方がふいっと目を逸らした。これではルートヴィッヒの言うようにただの焼き餅ではないかと気づくと、急に恥ずかしくなった。
「ルティア?」
「あ……」
ガルヴィードの視線から逃れられなくて、ルティアはおそるおそる彼を見上げた。
「私……」
「ガルヴィード様ー!お待たせいたしましたー!」
戻ってきたヘリメナの声に、ガルヴィードは咄嗟にルティアをひっ掴んでテーブルの下に押し込んだ。
テーブルクロスで隠して、ヘリメナにぶつからないように自分の足で囲う。ヘリメナは昔からガルヴィードの傍にいるルティアを目の敵にしている。見つかったら面倒なことになる。
ルティアもそれはわかったので、驚きつつもおとなしく匿われた。
男の股の間に匿われるという、それはどうなんだ、と言いたくなる体勢なのだが、ガルヴィードが自分を守ろうとしているのを理解しているためルティアには文句など言えない。王太子と他国の王女の茶会を、伯爵令嬢ごときが邪魔したりしたら、ルティアだけじゃなく父まで罰を受けるかもしれない。
茶会が終わって二人が立ち去るまで、ここでじっとしていなくてはならない。そう決意して縮こまるルティアだったが、そんな彼女に危機が迫っていた。
ふっと視線を落としたルティアの目に、ドレスの裾をもそもそと登ってくる、青くてもこもこした御方のお姿が。
「ひ」
立ち上がりかけたルティアの体を、ガルヴィードの足が抑えつけた。
大人しくしろ、とでも言いたげに足に力が込められるが、ルティアはそれどころではない。
一方、突然ばたばたと暴れ始めたルティアに、ガルヴィードは慌てつつも平静を装って足で抑えつけた。
——暴れんな、こら!
「ガルヴィード様?どうかなさって?」
「いえ……何も」
顔は微笑みながら、足に力を込める。
股の間でばたばた暴れるルティアを必死に抑えつけて、ガルヴィードは心の中で叫ぶ。
——なんで俺はこんな女を股に挟んで談笑せねばならんのだ!?
ひきつった笑顔で茶を飲もうとした時、ルティアがテーブルクロスを跳ね上げて飛び出してきた。
「ぎゃあああああっ」
そのままガルヴィードの首に抱きつく。
「取って取って取って!!」
「おいっ?」
「取ってぇぇぇっ!!」
ぎゃあぎゃあと喚いてぎゅうぎゅうと抱きつくルティアに目を白黒させていたガルヴィードの目に、ルティアのドレスにくっついた青い虫が飛び込んできた。
「ああ……」
「うあああんっ!!」
「ちょ、落ち着け!取ってやるから!」
手を伸ばして取ろうとするが、ルティアが暴れるので上手くいかない。
「うぎゃあんっ!!」
「暴れるなっつの!あれ?どこ行った?」
服の中に入ってしまったのか、ルティアがよりいっそう大きく暴れて、ガルヴィードは腕と足を使ってその体を押さえつけた。その拍子に、椅子が倒れて芝生に倒れ込む。
「ええいくそっ!!」
スカートの中に手を突っ込んで、ガルヴィードは太股を這っていた青い虫を捕まえて雄叫びを上げた。
「穫ったどーっ!!」
その騒ぎを聞きつけて、侍女や側近達が駆けつけてくる。
その場に集まった人達が目にしたのは、足を絡め腕を絡めくんずほぐれつ状態で地面に倒れ込み、はあはあ息を荒くして、ドレスを乱してぐったりしたご令嬢と何かやり遂げた王太子の姿だった。
その傍らに、顔を真っ赤にしてぶるぶる震えている宝石姫の姿がある。
「……何やってんだ……お前ら……」
ルートヴィッヒが頭を抱えて肩を落とした。
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