第31話 嫉妬




 中庭に飛び出して思い切り息を吐いて吸い込んだ。

「ふぃ~……」

 走ったせいか、顔が火照っている。ルティアはぷるぷると頭を振って熱を吹き飛ばそうとした。

 今日は天気がいい。日差しと暖かい空気が気持ちよくて、ルティアは少し庭を歩くことにした。

 考えるのは、ガルヴィードのことだ。

 ルティアがガルヴィードと結婚してアルフリードを産む。それが全国民から望まれていることだ。

 国王もルティアの父も、既に結婚の準備を着々と進めている。周りも当然そのように動いているのは想像に難くない。

 抵抗しているのは、ルティアとガルヴィードだけだ。それも、別に相手が嫌いで抵抗している訳ではない。

 ガルヴィードを見ると嫌悪感を覚えるが、ガルヴィードのことは嫌いではないのだ。

 数年前に、ガルヴィードと交わした会話を思い出す。

 喧嘩の途中で、ガルヴィードが『俺のどこが嫌いだ?』と訊いてきたのだ。

 それに対して、今より幼かった自分は長い時間考えた末にこう答えたのだ。

『殿下の中にある「何か」が嫌いです。殿下のことは嫌いじゃないのに、その「何か」が、殿下の中にいることが、ものすごく嫌なのです』

 その「何か」がいる限り、ガルヴィードの全部を好きになることは出来ない。

(でも、結婚するなら、好きにならなきゃ……)

「結婚……結婚……」

 ぶつぶつ呟きながら歩いていると、不意に甲高い嬌声が響いてルティアは顔を上げた。

 薔薇の園の向こうに、白いテーブルを囲むガルヴィードと宝石姫の姿が目に入った。

 ルティアはカッと顔が熱くなるのを感じた。

(は?なに?茶会って二人きりなの!?)

 正確には二人きりではなく、侍女が横に立っているのだが、ルティアの目には嬉しそうにしなを作るヘリメナと穏やかに微笑むガルヴィードしか入らない。

(随分、楽しそうに話してるじゃない!むぅ~)

 なんだかものすごく苛々して、ルティアは植え込みに身を隠しつつテーブルに近づいていった。


 ヘリメナが何か言って席を立った。侍女と共にどこかへ去っていく。

 お花を摘みにでもいったのだろうと思い、ルティアは植え込みの影にしゃがんだままテーブルの横まで移動し、ガルヴィードの腕を引っ張った。

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