第15話 手
「えー、では、後は若い二人で……」
「待て」
役目を終えて退場しようとしたルートヴィッヒだったが、その服の裾をがしっと掴んでガルヴィードが引き留める。
「なんだよ、もう用はねぇだろ」
「ある。俺とルティアが結婚しなくてもすむ方法を考えろ」
「そんな方法はない」
ルートヴィッヒは一言で却下した。
お茶に媚薬を盛られた日以降、ガルヴィードが警戒してルティアと二人きりではお茶を飲まないと宣言したため、お茶の間だけルートヴィッヒが同席することになったのである。
ルートヴィッヒはお茶の間だけ座っていればいいだけなので、飲み終わった今は席に着いていなければならない義務はない。
だが、ガルヴィードはルートヴィッヒを逃がすつもりはない。
ルティアと二人きりでゲームをするのもそろそろ飽きているのだ。
だから、この時間を有効に使いたい。作戦会議だ。
「要は、俺達が子作りしなくても、魔王が復活しなきゃいい話だろ?」
「魔王関係なく、お前にはルティア嬢しかいないってこの間言っただろ」
「うるせぇ。とにかく今は、この押せ押せムードに抗いたいんだよ!」
「やれ」と言われるとやる気がなくなる法則である。全国民をあげて「やれやれ」と言われると、これっぽっちもやる気にならない。
「ルティア嬢も、産みたくないわけ?」
ルートヴィッヒに視線を向けられて、ルティアはぶんぶん頭を縦に振った。
「なんで?英雄だよ?」
「英雄、でも……」
ルティアは頬を膨らませてテーブルに凭れた。
胸の中でもやもやする気持ちを、ルティアは上手く言語化出来なかった。
最初にあの夢を見た日、ルティアも他の皆と同じく、恐ろしい夢に怯え涙を流した。二晩続けて夢を見てしまってからは、どうかお救いくださいと神に祈った。
だから、理解は出来るのだ。もしも英雄の母がルティア以外の誰かだったら、ルティアはその誰かに対して「早く産んで!英雄を!」と言っていただろう。今現在、全国民がルティアに求めていることを、ルティアもその人に求めていたに決まっている。
だから、本当は頭ではわかっているのだ。自分は、ガルヴィードの子供を産むべきだと。
全国民がそれを求め、国王も認めているのだから、素直に受け入れて英雄を産むのがルティアの役目だと。
(わかってはいる。けれど……)
ルティアはちらりとガルヴィードの顔を見上げた。
その精悍な顔立ちを見る度に、不思議と嫌悪感が湧き上がってくる。
初めて会った時から、何故か消えない嫌悪感があるのだ。
(私はどうして、ガルヴィードが嫌いなんだろう)
一緒に居たくない訳ではない。一緒にいると楽しかったりもする。
それなのに、ガルヴィードの「何か」を、嫌いだと思ってしまうのだ。
「まあ、落ち着けよ。この間の媚薬みたいなのは、確かに馬鹿な奴の暴走だけど、俺達は皆、今すぐ産めって言ってる訳じゃないぜ。ルティア嬢はまだ十五だ。まずは手を繋ぐところから始めてみろよ」
「は?手ぐらい……」
「腕相撲は手を繋いだことにならないから」
ありがたいアドバイスは与えてやった。これ以上は付き合いきれん、と、ルートヴィッヒはガルヴィードの手を無理矢理振り解いて部屋から出ていった。
取り残された二人は、思わず顔を見合わせた。
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