第16話 重なる






 手を繋いだことぐらいある。

 山の中でキノコを探して遭難した時はさすがに心細くて手を繋いだし、呪われた人形と一緒に地下室に閉じこめられた時もガタガタ震えながら夜明けまで手を繋いでいた。

 だから、今さら手ぐらい繋いだところで何がどうなる訳でもない。

「ん」

「はい」

 ガルヴィードがぶっきらぼうに差し出した手に、ルティアは躊躇うことなく自身の手を重ねる。

 二人の手が重なって——それだけだ。

 ときめいたりしないし、気まずい雰囲気もない。

「どんくらい繋いでりゃいいんだ?」

「さあ?」

 ソファに隣り合って座って手を繋ぎ、やることがないのでぼーっと天井を眺める。

 手を繋いだまま、ルティアとガルヴィードはソファにもたれ掛かり——いつの間にか、眠ってしまった。


 ***

 ベッドから上半身を起こし、青い顔のガルヴィードが枕元の水差しに手を伸ばす。よほど喉が渇いていたのか、一気に水を呷る。渇きは潤ったはずなのに、ガルヴィードは何かが足りないという表情をした。

「……ルティア」

 口から出た声は、ひどく掠れていた。

「ルティアは、どこだ……」

「ガルヴィード」

 ベッドの横に立っていたルートヴィッヒが、肩をすくめて言った。

「何度も言っただろう。ルティア嬢はお前に会えない」

「ダメだ……っ、ルティアを連れてきてくれ!頼む!」

「無理だ。ルティア嬢が傍にいると、お前は具合が悪くなるじゃないか。ルティア嬢も納得してくれている。今は体を治せ」

 ガルヴィードもルートヴィッヒも、今よりほんの少し年上に見える。

 ガルヴィードは窶れており、長く寝付いているようだ。

 彼は必死な様子でルティアを求める。

「ルティアに会わせてくれっ……でないとっ」

「もう休め。元気になればいくらでもルティア嬢に会えるさ」

 ルートヴィッヒはガルヴィードの訴えに取り合わず、部屋から出ていった。

 取り残されたガルヴィードは、拳を握り締めて俯いた。

「……俺が、……俺じゃなくなる……っ!……ルティア……っ」



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