第3話 英雄の母(仮)




 目覚めて、叫んで、次にルティアは決意した。

 逃げよう。

 素早く決断してベッドから抜け出そうとした時、部屋の外から地響きのような足音が響いた。


「ルティア!!」

「おはようございますお嬢様!!」

「英雄の母!」


「ぎゃああああっ!!」


 押し寄せてきた父と母と兄と侍女と執事に、ルティアは叫んだ。


 目覚めて、叫んで、次にガルヴィードは決意した。


 逃げよう。

 素早く決断してベッドから抜け出そうとした時、部屋の外から地響きのような足音が響いた。


「ガルヴィード!!」

「王太子!!」

「英雄の父!!」


「うわあああああっ!!」


 押し寄せてきた国王と王妃と第二王子と侍女と近衛騎士に、ガルヴィードは叫んだ。



 ***


「いやあああああーっ!!絶対にいやあああああーっ!!産みたくないいいぃぃーっ!!」


 嫁入り前の伯爵令嬢が、自宅の柱にしがみついて絶叫していた。

 その伯爵令嬢を引っ張って、父である伯爵が言う。

「いやいやいや、何も今すぐ産めなんて言ってないぞ?」

「そうそう、今すぐなんて無理よねぇ?まずは結婚しなきゃ!」

「甥っ子も来年あたりとか言ってたしなぁ?」


 母と兄も一緒に引っ張りながらそんなことを言う。


「今でも来年でも結婚でもいやああああーっ!!いやったらいやーっ!!!」

「こら、ワガママ言うんじゃない!」

「そうよ!英雄が生まれるってわかってるのよ?安心して出産なさい!」

「英雄の伯父になれるなんて僕は誇らしいぞ!」

「なんで私があんな男の子どもをーっ!!いやああーっ!!」

「こら、王太子殿下をあんな男とは何事だ」

「そうよ。とりあえず王太子殿下にご挨拶に行きましょうね」

「そうそう。向こうもきっと慌ててると思うし」


 ルティアは頑張った。柱にしがみつき、近隣まで響き渡る声で泣き叫んだ。

 だが、父も母も兄も侍女も執事も近隣から集まってきた住民達も、


「あれが英雄の母か!」

「はっはっは。流石、イキがいいなぁ!」

「あれぐらい元気じゃなきゃな!」

「英雄を産むんだもんな!」

「頑張ってください!」


口を揃えて称えられて励まされて、味方は一人もいなかった。


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