第4話 ルティアとガルヴィード
ルティアは伯爵令嬢である。
貴族たるもの、政略結婚は常識だ。顔を見たこともない相手に嫁ぐことだって珍しくない。
貴族の令嬢に課されるのは、いかに家格が高く条件のいい相手に嫁ぐかということだ。
ルティアの家格はそれほど高くない。伯爵位の中では真ん中より少し上あたりに位置される家柄だ。
その伯爵令嬢が、王太子と結婚できるなら、それはもう一族を挙げて歓喜する慶事だ。
それなのに何故、ルティアがこれほど暴れて嫌がるのか。
それはひとえに、ルティアと王太子ガルヴィードが、不倶戴天の仇敵であるからに他ならない。
たとえばそう、貴族達が夢の内容について話し合うために集まった王宮で、無理矢理連れて来られたルティアと嫌でも出迎えなければならなかった王太子が、顔を合わせるなり互いの顔面をホールドして膠着状態に陥ったように。
「さて、あの夢が未来に起きることなのは異論ないですな」
「ええ。まったく恐ろしいことです」
「しかし、大きな希望がある」
「今から騎士団を増強しましょう!」
「教会も魔王の復活について調べています」
「大魔法使いは自身の魔法を他の優秀な魔法使いに伝えるといっています」
「とにかく、我々は未来の英雄を最大限に支えるため、出来る限りのことを始めましょう!」
「なにはともあれ、まずは英雄の誕生のための準備を」
「そうですな。今日で婚約を整えてしまいましょう」
「異議なし」
「「異議ありっ!!」」
ルティアとガルヴィードは声を揃えて怒鳴った。
「「なんでっ、こいつとっ、婚約しなきゃならんのだっ!!」」
「英雄誕生のためだ」
渾身の叫びは国王に一言で切って落とされた。
「そうですよ王太子。英雄のためです。早く産ませてください」
「ルティア様も、不安だとは思いますが、この国を、人々を救うためです。英雄の母となる栄誉を与えられたと思って……」
「いやああああっ!!無理無理無理!なんでこの陰険目つき悪王太子野郎の子どもなんて産まなきゃならないのー!?」
「誰が陰険だ!!こっちだってごめんだ!!産ませてたまるかあああーーっっ!!」
「では伯爵、こちらの婚約宣誓書にサインを……」
「はい。では、これで」
「「勝手に進めんなっ!!」」
まだ午前中だというのに、すでに婚約が整えられつつある。こんな時に限って王侯貴族の仕事が早い。
ルティアは隣の王太子の顔を見上げた。
漆黒の髪に同じ色の瞳、背の高い彼は黒狼の騎士との異名を持つ。ややつり目気味の瞳にすっきりした鼻梁、白い肌の美丈夫だ。
対するルティアは金色の髪に明るい星月夜を思わせる藍色の瞳、特別美しい訳ではないが、小柄で華奢でくるくるよく変わる表情が魅力的な少女だ。
そんな二人が、初めて顔を合わせたのは、王太子の婚約者を決めるために開かれたお茶会の席、王太子十歳、ルティア八歳のことだった。
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