第8話 ジン・トニックよ、永遠に

「はぁ、緊張する......」


 教会の入り口にある小部屋で、私と二人っきりの大地が肩を落とした。フロックコートに身を包み、白い手袋を弄んでいる。


「大地ったら、ステージに立つのは平気なくせに」


 そうからかう私は純白のドレスを着ている。何度も試着させられた末に大地がやっと満足した一着だ。


「それとこれとは別だよ」


 大地は苦笑して、まじまじと私を見つめた。


「千里......本当に綺麗だ」


「大地も素敵よ」


 眩しそうに目を細める大地が、私の額にキスをする。参列者が教会の中に入り終えると、私たちは並んで扉の前に立つ。


「転ばないといいけど......」


 目を閉じて祈るように言う大地に思わず笑った。目の前にいるフラワーボーイのほうがずっと落ち着いていた。


「ねぇ、大地」


「うん?」


「今夜はジン・トニックで乾杯する?」


「......千里は一口だけね」


 大地が眉を下げて笑う。

 永遠の愛を誓うとき、こっそりもう一つ誓おうと思っていることがあるの。


『私、二度とジン・トニックは飲みません』


 だって、本物の大地の愛情がここにあるから。ジン・トニックを飲んで再確認なんかしなくても、信じていられるから。感じて、沁みて、信じるの。


 だって、音楽家って感じる生き物でしょ。私は音楽家じゃないけど、彼の生き方が好き。だから、私も自分の心の声を信じるの。


ジン・トニックよ、永遠に。

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