第8話 魔獣

 結局、喜ぶ『ごぶりん』たちのにえの申し出は丁重ていちょうに断った。

 熱狂的とでもいえる彼らの喜びに気圧けおされつつも、私は彼らにうながされるままに魔獣退治を手伝うことにした。


 とはいえ、魔獣退治の話も頭目との会話では、私にりゅうの姿になってどうにかして欲しいという丸投げの様なものだった。

 彼らの仲間の一人を助けるため竜に変じて獣を追い払ったからか、どうも彼らは私を大蛇おろちたつりゅうの類縁と思っているらしいのだ。

 ――それを、彼らは『どらごん』と呼んでいるが。


 竜は竜でも、綿雲わたぐもの竜なので、「ごぶりん」たちの大きな期待には正直なところ困ってしまうところではある。


 だが、まあ……頼られるのは存外悪い気持ちではない。


○■△みろよ■○◎▽◇なんかにやけてるぜ


◎◇▽本当だ。|△▲◎○◇■□○《ドラゴンって何考えてるんだか分からなくて気味が悪いぜ」


〇■▽●○◎□わざわざ人間に化けて俺たちの油断を誘うくらいだしな〇〇●■◇▽▲□◎もしかしたら、優しくしておいてあとで魔獣もろとも俺らも皆殺しかも……」


◎◎■怖いこと言うなよ


◎〇■◇〇〇◇◇▼魔獣と相打ちになってくれればもっと良いけどな


▼◇□〇〇そうだな


 言葉の通じる頭目以外の彼らが何を言っているのかは分からないが、頼られることにある種の快感を覚えた私は、魔獣退治の件を安請け合いすることにした。

 彼らへの手助けというより私主体での魔獣退治の様相をていしてきたが、彼らの非力さから強いもの――と彼らが思っているであろう私――に頼りきりになるのも致し方あるまい。

 神頼みのようなものだ。




 そんな経緯でもって、私は魔獣の巣とやらへと、やって来たのだった。

 巣とは言っても、ただの大きな洞窟である。


 『ごぶりん』たちの話では、魔獣というのは野牛のような巨大な体で、恐ろしい力を持つという。

 よほど恐ろしいとみえて、案内役の者は誰一人として洞窟へと入ろうとしなかった。


 魔獣というからには、先の獣のもっと強そうな物なのであろうが……。

 とりあえずは、同じように魔獣も驚かしてしまえば良い。


 綿雲の竜とはいえ、その姿をみれば並みの者を圧倒するだけの威力はある。

 要は案山子かかし鹿威ししおどしよろしく、実際は獣に直接何かなす必要などなく、単に追い払ってしまえればそれまでの話だ。

 


「……それにしても、本当に私一人だけで洞窟の中に入ることになるとは……」


 せめて、お供の一人二人は欲しいところだが、贅沢も言っていられず私は手に小さなあかりを持ち、暗く冷たい洞窟へと歩を進めた。

 振り返れば少し離れた入り口で、案内役の『ごぶりん』たちが心配そうにしている。

 ぎゃいぎゃいと鳴き声のような言葉が分からないのは残念だが、彼らのためにも魔獣を何とかするべく気合を入れた。


●●□行った●●□行った


◎〇ふう〇□□▼▼◆◆〇◎お供が欲しいなんて言われたときは肝を冷やしたぜ


○○ああ〇◇■◇■◇◎◎大方、腹が減った時の非常食にでもするつもりだったんだろうな


●●□○○◎□●●□頭目にも困ったもんだ●●□▲△▼▽□●●□あんな得体のしれないものに助けてもらおうとするなんてよ


〇◇◆□□□◎◎◎△贄がいらないってのも、腹が減ってなかっただけかもしれないしな


〇■□◎◆□◎□●●□いや、むしろ生かしておいて奴隷にでもしようって考えなんじゃないか? 〇■●●□●●□◆□それで腹が減った時は食用にってよ


■◆□恐ろしいな▲◆□●●□◎□出てこれないようにできねえかな?」


◎□◎□○○俺に良い考えがあるぜ



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