第7話 異郷の地
「……つまり、ここは『るねすれんぬ』なる土地で、貴方たちはそこに住まう『ごぶりん』という種族であって、日の本など知らないと……そうですか」
『ごぶりん』なる種族の頭目の話からするに、やはり私はどこぞの異国へと飛んできたらしい。
『るねすれんぬ』という国は聞いたこともないが、日の本の言葉を喋るからには何かしら縁があるのかもしれないと思うのだが。
「貴方たちの知る人間は、皆、日の本の言葉を話すのでしょうか?」
「ワカラナイ。人間ハ何処ノ国モ人間ノ言葉ヲ話ス。我々ゴブリンガ、ゴブリンノ言葉話スヨウニ」
「どこの国も? 私の知る
これは、日の本の四方に広がる海の先、東西南北どの地に置いても同じこと。
であれば、日の本言葉を話すからには、日の本のいずれの地域かと思ったのだが……。
かつて、
あるいは、この者が流れ流れて辿り着いた果てに日の本の言葉を広く異国へ伝えたということも考えられるのかもしれない。
しかし、話をしてもゴブリンの頭目の口から出てくるのは、知らぬ土地の名前。日本とは
『ごぶりん』の頭目は語る。
白い大理石でできた城、各地の王侯貴族による争い、未知の宗教や神。
話を聞くにどうにも、彼らの言う人間たちというのは、遥か彼方の西方や南洋に位置する国の話でもするような寝物語の類に思われる。
よもや
ならば、見知らぬ土地であるのも頷ける。
……しかし、ならどうして日の本言葉が……。
うーん。
湧き水のように、頭から疑問符が次々と湧き出てくる。
あちらを立てればこちらが立たず。なんだか道理の通らぬことだらけだ。
そういえば、彼ら『ごぶりん』は何故こんなにも大勢で私の
礼を言うにしては、大所帯が過ぎる気がするが。
「実ハ、オ願イシタイ事ガアル」
「……お願い?」
「古キ
また知らない単語があった気がするが、話が進まないので黙って頭目の言葉に耳を傾ける。
「我ラノ
「助けてと言われましても……」
「分カッテイル。ドラゴン、
数十はいるかという『ごぶりん』の贄か。
――い、いらなすぎる。
竜に化生したせいで、
いや、確かに私も贄として、畑で採れた野菜とか川で採れた魚を供え物として貰うことはあった。しかし人間の贄など受け取ったことなどない。当然だが、受け取りたいとも思っていない。
まあ、彼らは人間ではないらしいが、私からすれば似たようなものである。
ありがた迷惑なのだ。
黙り込む私に、頭目はさらに追い打ちをかけるように頭を下げて懇願した。
「ドウカ、ドウカ、オ願イシマス」
社に人が訪れなくなり、熱心に
「…………ま、まあ手を貸すくらいなら私も構わないですが……」
「オオ! デハ彼の魔獣ヲ追イ払ハラッテ下サルト!!」
「え? あの、私は手を貸すと言ったのであって……」
「
「
「
「
「
何を言ってるか分からないけれども、皆喜んでいるようだ。
まあ、彼らとともに解決策くらい考えてみるのも良いだろう。魔獣が何か知らないが畑を荒らす獣のようなものとして、確かに放っておいては村の危機である。
狂喜乱舞する『ごぶりん』たちに一抹の不安を覚えつつ、私は愛想笑いを浮かべるのだった。
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