第2話 そうして、そして

 その揺れといったら凄まじく、大木が宙に向かって吹っ飛んでいくか、あるいは大岩が彼方此方あちこちを滅茶苦茶に走り回っても不思議ではない程だった。

 とても私は立っていることができず、蛙のように四つん這いで床に伏せていたが、揺れのたびにコロコロと転がされるばかり。

 その様ははたから見れば、正に、人の子のてのひらの上で弄ばれる蛙そのものだったろうと思う。人型の地震神なゐのかみが揺らす手の中、無様に転がる己の姿を思い浮かべて、我ながら何とも情けないなと意気消沈した。


 ――とは言え。

 いずれ子供が飽きて蛙を放り投げるように、山の大揺れは一頻りひとしきり揺れに揺れると私を壁に打ち付けたところでおさまった。


 頭飾りも紺地の着物も乱れに乱れ、ほうぼうの体で起き上がる。

 何ともひどい目にあったものだ。


 部屋も今の揺れで物が散乱している。こんな有様はとても友に見せられない。すぐにでも片付けたいところだが、岩魚イワナも取りにいかなくてはならない。


 地震神め。なんということをしてくれたのか。

 そんな怒りが湧き上がってくるが、一先ず心を落ち着かせるため私は外の空気を吸おうと社の扉を開くことにする。


「――――は?」


 扉を開いた、その先。

 そこに、慣れ親しんだ小山おやまもりはどこにもなく、大小様々な岩が突き出る荒れた大地が広がっている。

 一度、外に出て確認してみるも、私を祀る社や周囲の祠の類だけがぽつんとそのままに残されるだけで、周囲に草木の類は全くない。


 まさかこの世が突如として終末を迎え、私の社だけが残ったのだろうか。

 ――いや。そんなことはあるまい。それならばなぜ私だけが無事なのかという話になるし、そもそも周囲の地形が元の小山とは違い過ぎる。天変地異が起こったというより、最初からここは荒れ地だったようなのだ。


 とするとである。

 先ほどの揺れによって、私が社ごとここへ吹き飛んできたということだろう。

 もちろん吹き飛んできたとして、どうして社が潰れていないのか、部屋が散らかった程度で済んでいるのかと思わないでもない。

 ただ、何かの拍子で神が異なる世界を訪れるというのはふる時代ときにはよくあった話である。


 ある神などは、草に弾かれて常世とこよという別世界へ旅立った話すら伝わっているくらいだ。


 少なくとも、「自分以外が一瞬で滅んでしまいました」というより「いつの間にか自分が知らない場所にやって来ていました」の方がまだ安心できる。

 

「……それにしても、ここは一体……」


 どこか見知らぬ遠方の荒れ地に吹き飛ばされたか、あるいは世界すら超えて黄泉よみや根の国にでも来てしまったのだろうか。 


 ふと、何もない小山の杜で手持ち無沙汰に佇む友の姿を想像し、私は大きくかぶりを振った。


――はやく帰ろう。


  

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