辺境の女神、祠ごと異世界へ吹っ飛ばされる。

@TekeliTekeli-li

第1話 神の小山

 とある小山おやまのそのもりには、天霧様、狭霧様などと麓の人間に祀られている神のための古いやしろがたっていた。


 その神とは誰あろう、私のことである。


 この杜に神留かむづまること幾年月、一人静かに物寂しい日々を送ってきた。

 かつては、祭りのりに人間たちが集まることもあったが、いつの頃かそれもなくなった。

 どうしたのだろうと気になって麓の村をこっそり訪れると、大層立派な寺院が出来上がっており、祭りや祈りはそこへ捧げられているという。


 話によれば、山奥ではどうしても常の参拝は難しかろうと村人達が山にあるものと似たような社を麓にも建てたのがそもそもの始まりであるらしい。当時には、普段は麓の社で拝み、祭りなど特別な催しの際は山奥の社で行うとしていたようである。

 時が経って、くににて蕃神ばんしんの教えを学んだ僧がやってくると社は寺院に建て替えられ、蕃神を祀るようになった。


 簡単にいうと「有難い外つ国の神様が来たので、もうお前はいらない」ということである。


 こうして、私のもとに人間がおとずれることはめっきり減ったのだが、それでも昔馴染みの一柱のともは変わらず――と言っても元より時々であるが――私をたずねてこの杜に来てくれるので、退屈ということはない。


 そんな友が、丁度明日やってくる。


「…………ムフッ」


 自然と浮かんだ笑みに、私は一人で羞恥した。

 

 一体何をボーっとしているのか。今日は友の好物の岩魚イワナを取りに行く日だというのに。ちなみに昨日は友の好物の山芋ヤマノイモのムカゴをたくさん取った。


 塩ゆでにしたムカゴと岩魚の串焼きが特に友の大好物であるから、この二つはしっかりと準備しておきたい。もちろんそれだけでなく、山程集めた山菜や沢蟹さわがにのからあげも用意して盛大にもてなすつもりだ。


 私は岩魚取りのための漁具を物色し始める。


 その時、辺り一帯――もしかすると小山全体だったかもしれない――が大きく揺れた。  



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